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南アルプス山麓のコウモリ2種、体の大小による違いで食い分けて共存 東京農工大など

2023.12.06

 山梨県の南アルプス山麓の森に住み、見た目がそっくりで共通の特徴を持つ近縁のコウモリ2種が、体の大小による違いによって餌を食い分けて共存している可能性があることを、東京農工大学の髙田隼人特任准教授(動物生態学)らが明らかにした。ねぐらに落ちているコウモリの糞を定期的に集めて食べたものを定量的に分析。噛む力や飛翔能力の差が食性の違いにつながっていることが示唆されるという。

 近縁2種のコウモリは、キクガシラコウモリ(体長6.3~8.2センチ、体重16~35グラム程度)とコキクガシラコウモリ(同3.5~5.0センチ、同4~9グラム程度)。顔ほぼすべてが菊の花のように波打つ鼻が占めていることから「キクガシラ」と名付けられており、小さい方に「コ」がついている。両方とも幅広の短い翼で込み入った森林で飛んでエサを食べるという共通の特徴を持つ。同じ場所に住んでいることから餌を食い分けしていると予想されていたが、夜行性であるため直接観察するのは難しかった。

キクガシラコウモリ(左)とコキクガシラコウモリ(東京農工大学髙田隼人特任准教授提供)
キクガシラコウモリ(左)とコキクガシラコウモリ(東京農工大学髙田隼人特任准教授提供)

 東京農工大農学部附属野生動物管理教育研究センターの髙田特任准教授らは、2種がそれぞれに洞窟をねぐらとして利用していることに着目し、休息中に落とす糞から何を食べているか調べることにした。コウモリが休息しがちな場所の下にプラスチックトレーを設置し、冬眠する期間を除く2015年4月から16年1月まで月1回、計10回ねぐらを訪れて、表面がぬれて光っている新鮮な糞のみ回収。一粒がキクガシラで1センチ超、コキクガシラで5ミリ前後の糞それぞれ合計161個、143個を実体顕微鏡で見て、消化しきれず残った触角やはね、脚、顎といった破片から食べられた虫を特定する糞分析を行った。

春(4~6月)と秋(9~11月)におけるコウモリ2種のエサの出現頻度(東京農工大学髙田隼人特任准教授提供)
春(4~6月)と秋(9~11月)におけるコウモリ2種のエサの出現頻度(東京農工大学髙田隼人特任准教授提供)

 糞分析から、キクガシラがもっとも食べるのは甲虫で、コキクガシラはガやハエ、カゲロウを食べていた。海外の先行研究で、コウモリの体サイズが大きいほど顎の力が強いとされる仮説が、野外で生活している近縁種の実証により裏付けられた。

 また、キクガシラは飛ぶ虫ばかり食べていた一方、コキクガシラではわずかながらもクモやチョウの幼虫(イモムシ)を食べていることが確認された。小さいコキクガシラは飛ぶ能力が比較的高く、枝にぶら下がりながら待ち伏せしてエサをとるキクガシラと違い、餌を飛びながら探し、見つけたらホバリングして食べている可能性があるという。

 今回の研究では近縁2種のコウモリの食い分けのみに注目した。髙田特任准教授は「森林にすむ一部の動物のつながりが明らかになっただけかもしれないが、類似の知見を積み重ねることで生態系の複雑さを解きほぐし、保全の手立てを見つけることにつながっていく」と話している。

 成果は10月15日付けのオランダの動物学雑誌アニマルバイオロジー電子版に掲載された。

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