交通渋滞の長さ(渋滞長)を精度良く予測する人工知能(AI)を、京都大学大学院情報学研究科竹内孝講師らと住友電工システムソリューション(SSS)の研究グループが開発した。警視庁が提供した交通ビッグデータで機械学習し、1時間先の渋滞長を40メートル以下の誤差で予測できるようになった。交通管制システムにおける本格的な運用に向け、評価試験などを実施して技術の信頼性を高めていくという。
このAIで予測した渋滞長をもとに、車を空いている道に誘導したり、青信号の長さを調整したりするなどして渋滞を減らす狙いだ。研究グループは時空間AI技術「QTNN」(待ち行列理論に基づく神経回路網)と名付けた。
QTNNは、警視庁から提供を受けた都内の幹線道路1098区画(1区画の長さは平均882メートル、中央値750メートル)で5分おきに計測した平均速度、交通量、渋滞長のビッグデータ約1年分を用いて開発した。深層学習だけでなく、交通工学において交通状況を表す数理モデル(交通流モデル)を活用した。
具体的には、まず深層学習によって道路ごとの今後の平均速度と交通量を予測。次に交通流モデルで今後の渋滞長を予測するという2段階を経る。一般に深層学習は結果の理由を説明できない難点があるが、交通流モデルと合わせることで「○時に車両の流入台数が急激に増加して渋滞長が大きく伸びます」といった解釈つきの予測を出せるという。
QTNNで1時間先の渋滞長がどれだけ正確に予想できるかを検証したところ、渋滞がない場合も深刻な渋滞が生じた場合も含めて平均誤差40メートル以下で予測できた。別のAIと比較しても高精度で、最先端とされる深層学習の手法と比べても予測誤差は12.6%減ったという。
QTNN開発は、東京都の構造改革の取り組み「シン・トセイ」において、警視庁が担当する「AIとビッグデータを活用した交通管制システムの高度化プロジェクト」の一環で実施している。今後は本格運用に向けて一部の道路を対象に評価試験をする。竹内講師は「道路工事や事故発生、信号機の切り替え制御といった情報も活用したAIの改良にも取り組みたい」と話している。
研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業などの支援を受け、成果は米国で8月に開催されたAI分野の国際会議KDD2023で発表した。
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