ニュース

暗黒物質&エネルギーの謎に迫る 欧州「ユークリッド」打ち上げ成功

2023.07.04

 正体不明だが宇宙の組成の計95%を占める暗黒物質と暗黒エネルギーの謎の解明を目指す欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「ユークリッド」が日本時間2日、打ち上げに成功した。100億光年先までの数十億の銀河を観測して正確な3次元地図を作成。これを手がかりに、宇宙の構造に大きく影響してきた暗黒物質や暗黒エネルギーの理解を進める。

宇宙望遠鏡「ユークリッド」の想像図(ESAなど提供)
宇宙望遠鏡「ユークリッド」の想像図(ESAなど提供)

 ユークリッドは2日午前0時12分、米フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から米スペースX社の「ファルコン9」ロケットで打ち上げられた。41分後、所定の軌道に投入され打ち上げは成功した。

 ESAのヨーゼフ・アッシュバッハー長官は「現代科学の最も切実な疑問の1つに答えるための新たな取り組みの始まりだ。宇宙の根本疑問に答えようとする探求こそが、私たちを人間たらしめる。ESAは宇宙への欧州の野心と成功の拡大に尽力している」とコメントした。

宇宙望遠鏡「ユークリッド」を搭載し打ち上げられるファルコン9=日本時間2日午前、米フロリダ州(ESAの中継画面から)
宇宙望遠鏡「ユークリッド」を搭載し打ち上げられるファルコン9=日本時間2日午前、米フロリダ州(ESAの中継画面から)

 機体は高さ4.7メートル、幅3.7メートルで、重さは燃料込みで2トン。口径1.2メートルの反射望遠鏡、銀河を撮影する可視光のカメラ、赤外線を基に銀河の距離を計測する装置などを搭載。米航空宇宙局(NASA)が赤外線装置の検出器を提供した。研究には欧州と米国、カナダ、日本の300超の機関の2000人超が加わっている。

プランク衛星による宇宙の組成。黄色が“普通の物質”、青が暗黒物質、紫が暗黒エネルギー(ESA、プランク研究グループ提供)
プランク衛星による宇宙の組成。黄色が“普通の物質”、青が暗黒物質、紫が暗黒エネルギー(ESA、プランク研究グループ提供)

 今世紀に入り、私たちの知る原子でできた“普通の物質”は宇宙のごくわずかを占めるに過ぎないことが分かってきた。欧州「プランク衛星」の観測に基づく2013年公表の値によると、普通の物質は4.9%。残りの26.8%は重力を持つが見えない暗黒物質、68.3%は重力に逆らって宇宙を加速膨張させる暗黒エネルギーで構成している。暗黒物質はダークマター、暗黒エネルギーはダークエネルギーとも呼ばれる。

 宇宙空間で銀河はネットワーク状に集合して分布しており、このような大規模な構造を暗黒物質の分布が決定づけているとされる。20世紀末、宇宙の膨張が加速していることが分かり、暗黒エネルギーがその原動力と考えられている。

 ユークリッドは100億光年先までの、これまでで最大で最も正確な宇宙の3次元地図を作成するという。銀河の形や位置、動きを把握し、宇宙空間の物質の分布状況、宇宙の膨張の歩みなどを解明し、暗黒エネルギーと暗黒物質の性質の理解につなげる狙いがある。

 ユークリッドは今後1カ月かけ、地球から150万キロ離れ、地球と太陽の引力が釣り合う「ラグランジュ点2(L2)」に達する。ラグランジュ点は、ある天体が別の天体の周りを回る場合に、それらの引力が釣り合う5つの位置。宇宙望遠鏡のような質量の小さい物体は、そこに留まり続けられ、燃料を節約できる。地球と太陽のラグランジュ点5つのうちL2は、太陽から見て常に地球の向こう側にある。望遠鏡が太陽と地球、月に同時に背中を向けられる観測上の好位置となっている。

 仏領ギアナで欧州とロシアが協力して運用していた「ソユーズ」ロケットで打ち上げる計画だったが、ウクライナ侵攻後にギアナでのソユーズの運用が停止し、延期を経てファルコン9に変更された。機体の寿命は6年だが、燃料を節約できれば延長の可能性がある。名称は幾何学の基礎を築いたことで知られる古代ギリシャの数学・天文学者、ユークリッド(エウクレイデス)に由来する。

関連記事

ページトップへ