2021年8月に大量の軽石を噴出した海底火山の「福徳岡ノ場」は、マグマだまりの内部にできた1マイクロ(100万分の1)メートルに満たない微細な結晶が引き金となって噴火が起きたという新しい噴火モデルを、海洋研究開発機構火山地球内部研究センターの吉田健太副主任研究員(岩石学)らのグループが明らかにした。沖縄など南西諸島から関東へ漂着した軽石を、電子顕微鏡や放射光分析で詳細に調べて得たデータを元に計算して求めた。
東京の南方約1300キロに位置する海底火山の福徳岡ノ場は、2021年8月13日に噴火し、その後放出された軽石が沖縄・奄美をはじめ、日本列島の各地に漂着した。ほとんどが白っぽい灰色をしていたが、黒い軽石や白黒両方が見られる軽石もあった。白っぽい軽石はほかの火山噴火でも普通にみられるが、黒い軽石は珍しい。
吉田研究員らは今回得られた黒い軽石には、噴火したマグマだまりよりも高い温度でより深くに存在している玄武岩質マグマに由来する物質が含まれている可能性があるとみて、白黒両方が見られる軽石について、詳細な分析を行った。
光学顕微鏡でみると、白い部分と黒い部分の境界部分は明瞭だった。透過型電子顕微鏡で観察すると、黒い部分にあるガラス質に、10~20ナノ(ナノは10億分の1)メートルほどの磁鉄鉱、100ナノメートルほどの黒雲母、300ナノメートルほどの単斜輝石の微細な結晶が点在していた。一方、白い部分のガラス質にはそれらの結晶はほぼなかった。
高エネルギー加速器研究機構で放射光X線吸収分光法を用いて主に磁鉄鉱に含まれる鉄(Fe)の電荷について分析すると、黒い部分では白い部分より3価の鉄(Fe3+)が多いことが分かった。このことから、深くにある水やガスに富む玄武岩質マグマの一部が2021年に噴火したマグマだまりまで上昇していたと考えられるという。
地下4キロより深いマグマだまりの温度が約930度、圧力が100メガパスカル(約1000気圧)と条件を設定し、軽石の組成などを考慮しながら熱力学的モデルを用いて計算した結果、噴火の過程が(1)地下深部から1250度ほどの水やガスに富む玄武岩質マグマが、今回噴火したマグマだまりに入り込んで磁鉄鉱などの結晶をつくり、できた結晶が核となって泡が発生し始める、(2)泡とともに高温のマグマが上昇して対流を生み出す、(3)内部圧力が高くなって、もろい部分から爆発的な噴火が始まる――という新しい噴火モデルが示された。これまでの噴火の最中の急激な冷却や減圧によって結晶ができるとの見方とは異なるという。
今回は、色の違う軽石の違いを詳細に調べることでマグマだまりの内部で微細な結晶ができうることや、できた結晶が噴火の引き金となることを示したが、海底火山の活動には未知なことが多くあるという。吉田研究員は、「ほかの火山でもマグマ内に水が入ったり結晶ができたりするかを調べることで火山の噴火準備過程に関する知識が集まる。知識を蓄積しながら観測と監視を続けることで、防災・減災に役立てたい」と話している。
この研究は、京都大学や東北大学、静岡大学、高エネルギー加速器研究機構と共同で行い、英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。
◇6月1日追記
本文の一部を訂正しました。
最終段落
誤「日本地質学会の国際誌「アイランドアーク」に掲載された。」
正「英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。」
関連リンク
- 海洋研究開発機構(JAMSTEC)プレスリリース「軽石のナノスケール岩石学から福徳岡ノ場の新しい噴火モデルを提案」