尿路結石のもとになるシュウ酸を分解する腸内細菌に存在し、シュウ酸を取り込む分子「シュウ酸輸送体」の立体構造を、岡山大学学術研究院医歯薬学域の山下敦子教授(構造生物学)らの研究グループが大型放射光施設SPring-8で解明した。小さな分子であるシュウ酸を柔らかく包みこみ、効率よく菌内に運んでいた。この働きを生かして腸内のシュウ酸を吸収・分解できれば、尿路結石症を防ぐことが期待される。
輸送体はアミノ酸421個からなるタンパク質。シュウ酸分解菌を外界と隔てている細胞膜に埋まったような形で存在する。物質の通り道があり、入り口と出口が開いたり閉じたりする。カルボン酸が2つつながったシュウ酸を選択的に菌内に取り込み、カルボン酸1つのギ酸に分解して外へはき出す。
研究グループは、輸送体の結晶化に挑戦し、2つのタイプの結晶をつくることに成功した。SPring-8でX線結晶構造解析を行って構造を調べると、一方は腸内に向けて空間が開いている「外開き構造」だった。もう一方は、輸送体の中心にシュウ酸が結合して閉じ込められているような「閉じ構造」をしていた。電荷や輸送体中心部の大きさ、柔軟性の高いアミノ酸グリシンを多く有することで、小さいシュウ酸だけを選んで取り込める構造になっていた。
菌内にシュウ酸を取り込み、取り込んだシュウ酸を分解してできたギ酸を外に出すという菌の働きから、菌内に向けて空間が開いている「内開き構造」やギ酸が結合した「閉じ構造」をした輸送体も別にあると考えられており、山下教授らはさらなる輸送体の結晶化に取り組んでいる。
世の中に知られている激痛を起こす原因として、痛風、虫垂炎、群発頭痛、心筋梗塞、陣痛などがある。山下教授が「3大激痛」と世に言われるものにどんな組み合わせがあるかを調べると、尿路結石は必ずその1つを占めていた。尿路結石は日々の食事で摂取したシュウ酸が腸で吸収されて腎臓に送られ、尿路でカルシウムなどと結晶化してできる。
シュウ酸はホウレンソウをはじめとする葉物野菜や茶、ナッツなどに比較的多く含まれる。シュウ酸が水溶性であることを利用して野菜などを湯がいて食べれば摂取量が減るし、あるいはシュウ酸と結びつきやすいカルシウムを一緒に食べれば体外へ出やすくなる。それでも、血中のシュウ酸濃度が高く、高シュウ酸尿症を患う人もおり、それを改善する方法として、シュウ酸分解菌の経口摂取が米国などでは検討されているという。
山下教授は「今回の研究で、シュウ酸分解菌にある輸送体が柔らかくて壊れやすいことや、菌の働きを抑える条件など知見がたまってきた。分解菌を利用しながら尿路結石症の原因を治療する方法を探る上で基盤的な知見となる」と話している。
研究グループは分子科学研究所、京都大学、理化学研究所の研究者で構成し、成果は英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに4月3日掲載された。
関連リンク
- 岡山大学プレスリリース「尿路結石形成を防ぐ腸内細菌で働く鍵分子・シュウ酸輸送体の立体構造解明」