11年前の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)で、海上で見つかった犠牲者は、入り江と岬が入り組んだリアス海岸の沖合で特に多かったことが、東北大学災害科学国際研究所の研究グループの調査で分かった。地形の要因で引き波の力が大きく、流されてしまったと考えられる。入り江の先に生活の場が集まっていたことも要因とみられ、備えや避難の重要性が改めて明らかになった。
研究グループは宮城県警による主に同県の犠牲者9527人のデータから、被害状況を詳しく分析。陸上に比べ、海上の実態解明が遅れていたことから、海上で発見された犠牲者568人を沿岸の自治体別に調べた。その結果、石巻市で最大の203人、続いて女川町115人、気仙沼市114人、南三陸町68人となり、リアス海岸を持つ三陸の自治体が突出した。陸上の犠牲者数が気仙沼市と同程度でも、海岸線が比較的滑らかな平野部では、東松島市(21人)、名取市(3人)などと少数にとどまった。
研究グループの今村文彦教授(津波工学)は「三陸には急斜面があるため、津波の遡上(そじょう)距離が短い。そのため引き波が強く、湾奥の街の住民が巻き込まれ沖合へと流されてしまったのではないか。海上では救助が難しくなってしまう」と述べている。これに対し平野部では、津波が内陸の数キロに及んだ分、引き波が弱かったと考えられるという。
遺体発見場所と居住地の関係を調べたところ、海上で見つかった人の68.8%にあたる391人が、発見場所の沿岸の居住者だった。女川町の84%など、リアス海岸の自治体では平野部に比べ、居住者の割合が高かった。発見までの日数の中央値は陸上が8日だったのに対し、海上は44日と長く、捜索の難しさがうかがえた。
研究グループはこのほか、低体温症による犠牲者も分析した。海沿いの自治体だけで確認され、高齢者や、屋内での発見が多かった。津波で濡れた体を避難先で温められずに死亡した可能性があるという。また内閣府は昨年12月、日本海溝や千島海溝沿いでM(マグニチュード)9級の巨大地震が起きた場合の被害想定をまとめており、低体温症で死亡のリスクが高まる人数を、最大4万2000人と推計している。
そこで研究グループは、低体温症のリスクを整理し、災害時に避難所などで活用できるチェックリストをまとめた。「体は震えているか」「体は床に接しているか」など7項目の確認事項と、対応法で構成。門廻充侍(せと・しゅうじ)助教(防災工学)は「低体温症は津波に限らず、停電などによっても起こる。地域住民の使いやすさを考え、医学的知識がなくてもリスクを減らせる内容にまとめた」とした。
東日本大震災は2011年3月11日に発生。三陸沖を震源に、観測史上国内最大のM9.0を記録した。日本海溝から沈み込む太平洋プレートと、その上の北米プレートの境界で発生したプレート境界型地震。宮城県栗原市の最大震度7のほか、東北、関東地方の8県で6弱以上を観測した。最大16メートル超に及ぶ津波が、太平洋岸の広域に甚大な被害を与え、世界最悪レベルの福島第一原子力発電所事故を引き起こした。
総務省消防庁の資料によると、今年3月1日現在で死者は1万9759人、行方不明者は2553人。不明者の捜索と、復興の取り組みが今も続く。
関連リンク
- 総務省消防庁「東日本大震災関連情報」
- 内閣府「東日本大震災関連情報」
- 気象庁「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」
- 東北大学災害科学国際研究所津波工学研究室
- 内閣府「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ」