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「1.5度抑制」と石炭火力の「段階的削減」で合意 COP26が文書を採択し閉幕

2021.11.16

 英国・グラスゴーで10月31日から開かれていた国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の第26回締約国会議(COP26)は予定会期を1日延長した13日、「産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えるための努力を追求する」ことなどを盛り込んだ成果文書を採択して閉幕した。焦点だった石炭火力発電所の扱いについては議論が紛糾し、当初案だった「段階的に廃止する」から「段階的削減に向けた努力を加速する」と表現が弱まったものの、石炭火力を削減する方向性が初めて明記された。気温上昇抑制の目標は「2度未満」から「1.5度」に事実上高められた形だ。各国には温室効果ガス排出量を削減するための脱炭素政策など具体的な行動を確実に進めることが求められる。次回のCOP27はエジプトで開かれる予定。 

COP26の開幕セッションの様子(Kiara・Worth/UNFCCC提供)

 COP26は新型コロナウイルス感染症の流行拡大で1年延期され、10月31日に開幕。UNFCCCに参加する200近くの国・地域の代表らが参加した。会議前に指摘された主な焦点は、気温上昇を抑える新たな目標設定や各国の排出削減目標の上積みへの道筋、二酸化炭素を多く排出する石炭火力発電所の扱いだった。

 「パリ協定」は2015年に「京都議定書」の後継として採択され、20年1月に本格始動した地球温暖化対策の国際枠組みだ。産業革命前と比べた世界の気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目指してきた。全ての参加国は自主的に削減目標を決めて国内対策に取り組むことが国際約束になっている。

 COP26を前に国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8月に「人間が地球温暖化を引き起こしていることは疑う余地がない」と断言する報告書を公表した。この中で、温室効果ガスの排出が今のまま続けば、産業革命前からの気温上昇は今後20年以内に1.5度を超える可能性が非常に高いと結論付けている。そして現段階でも産業革命前と比べて「50年に1度の熱波」が4.8倍に増えているのに1.5度上昇によって8.6倍になると予測した。

 「1.5度抑制」のためには、2030年の二酸化炭素の排出量を10年比で45%削減する必要があると試算している。一方、各国が国連に提出した排出削減目標が全て実施されても30年の排出量は10年比で13.7%増加してしまうと分析されている。

 このためCOP26ではパリ協定の「2度未満」から「1.5度抑制」へと目標を高める必要がある、とIPCCの科学者など多くの科学者や国際機関などが指摘していた。交渉は難航したが、最終的に採択された文書では「1.5度に抑えるための努力を追求することを決意する」という表現が盛り込まれた。「努力の追求を決意」という回りくどい文言は付いたものの世界が「1.5度」を目指すことが鮮明になった。

 現在、各国が掲げる排出削減目標ではこの新たな目標の達成は難しいことがさまざまなデータ解析に明白になっている。このため文書では「必要に応じて2022年末までに30年の削減目標を再検討し、強化するよう要請する」という項目も入った。

COP26が開かれた英国・グラスゴーの会場(UNFCCC提供)

 石炭火力の扱いについて、議長国の英国は当初「排出削減対策が講じられていない石炭火力の段階的廃止」との表現で合意を目指した。しかしインドなど石炭火力依存度が高い国が反発。会議の最終段階になって「廃止」の文言が「削減」に差し替わり、「温室効果ガス排出対策が講じられない石炭火力の段階的削減に向けた努力を加速する」という緩い表現になった。

 会議ではこれまで先進国が発展途上国に約束していた「2020年までに年間1000億ドル(約11兆円)を支援する」との目標が守られていないことから多くの発展途上国が反発し、先進国を批判した。このため文書では「深い遺憾の意」を表明。先進国に約束を果たすよう求めることが盛り込まれた。

 このほか、積み残し課題になっていたパリ協定の実施ルールについても合意した。技術支援などによって他国で温室効果ガス排出を削減した際に、関係国や企業の間でその排出削減分を取引するためのルールなどが定められた。

 日本政府は「2050年脱炭素」を掲げて30年度の排出量を13年度比46%削減する計画を国連に提出している。日本のほか、排出削減目標を提出している多くの先進国や発展途上国も目標実現への道のりは容易ではない。気候変動対策が「待ったなし」の状況の中で目標を高く掲げるだけではほとんど意味がなくなる。このため文書では「この重要な10年間に行動を加速することが必要だ」と明示された。

 会期中の11月1、2日は首脳級会合が開かれた。バイデン米大統領は「米国は(一度離脱した)パリ協定に戻ってきただけでなく、模範となって世界に示したい」。また日本の岸田文雄首相は「目標達成に向けこの10年が勝負だ」などと強調する演説をした。10日には排出大国の米国と中国が、温暖化対策の協力を強化する共同宣言を発表している。

COP26で採択された成果文書の基になった最終案の表紙の一部(UNFCCC提供)

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