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二枚貝が川底の安定性守る 斜里町立知床博物館など、絶滅危惧種で実証

2021.10.21

 二枚貝が砂を動きにくくして川底の安定性を高め、川の地形や流れに影響を与えていることを実験で初めて確かめた、と斜里町立知床博物館(北海道)などの研究グループが発表した。川の地形や流れは、生物の個体数や生態系のさまざまな要因を左右している。調べた貝は絶滅危惧種で、保全の重要性を再認識する成果となった。

 水生生物が川底の砂や石の安定性に与える影響は、これまでも調べられてきた。幼虫が糸を吐き網を張って餌を獲る昆虫「トビケラ」などの役割が明らかにされている。ただし、実験用の小さな人工河川などでの研究にとどまり、規模の大きな実際の川では調べられてこなかった。

カワシンジュガイ(上)とコガタカワシンジュガイ(三浦一輝氏提供)
カワシンジュガイ(上)とコガタカワシンジュガイ(三浦一輝氏提供)

 そこで研究グループは、川底に群生する二枚貝、カワシンジュガイ科のカワシンジュガイとコガタカワシンジュガイの2種が、北海道厚岸(あっけし)町の別寒辺牛(べかんべうし)川支流の中流で、実際に川底の安定性を高めるかどうかを検証した。勾配が緩く、川底が砂で覆われた場所を選んだ。2種とも北海道と本州に生息するが、環境省レッドリストで「絶滅危惧IB類」に選定されている。実験した地域では1平方メートルあたり平均175匹いるという。

 実験区間は川の長さ10メートルの区間を計12カ所、設定した。これらを(1)貝をいったん全て除去し24時間後に戻した区間、(2)除去したままの区間、(3)何もしない区間--に分けた。除去の直前、直後、2カ月後、3カ月後、1年後の水深や流速などを比較した。

川底に群生するカワシンジュカイ(三浦一輝氏提供)
川底に群生するカワシンジュカイ(三浦一輝氏提供)

 その結果、(2)の除去したままの区間で、2カ月以降に平均で水深が約30センチ増し、流速が秒速6.6センチ遅くなった。川幅はいずれも変わらなかったが、(2)では水深で割った比率が50%小さくなり、水深が増して川の断面積が大きくなったことが分かった。貝が消えたことで失われた、貝が水深や流速を改変する効果の値も算出した。この変化はつまり、貝がいると浸食が抑えられ、川底が安定することを示している。貝の有無は川の地形や流れにまで、影響するとみられる。

 貝が砂の浸食を抑える具体的な仕組みは未解明だが、川底に刺さる貝が流れに対する抵抗を高めて砂を動きにくくしていることと、突き出た貝殻が川底付近の流速を遅くして砂の浸食を抑えていることの、2通りが考えられるという。 なお、(2)の区間から除去した貝は同じ川の別の場所に放流した。

二枚貝を除去する実験による、川の断面と物理環境の変化(三浦一輝氏提供)
二枚貝を除去する実験による、川の断面と物理環境の変化(三浦一輝氏提供)

 実験により、川の生物がこれまでの認識以上に、川底の安定性を高めていることが分かったという。カワシンジュガイが絶滅すると、他の生物や生態系にまで波及的に影響する恐れがあり、この種を適切に保全する必要がうかがえる成果となった。

 研究グループの斜里町立知床博物館の三浦一輝学芸員(保全生態学)は「今回は勾配が緩く、川底を砂が占める川で実験したが、勾配や川幅が異なる川や、もっと大きな石がある川での検証は今後の課題だ。貝が川から消える速さや条件の違いの影響も、明らかにする必要がある」と述べている。

 研究グループは斜里町立知床博物館、北海道大学などで構成。成果はオランダの水生生物学誌「ハイドロバイオロジア」の電子版に5日掲載され、同館などが12日に発表した。

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