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二酸化炭素から多孔性材料を作製 常温常圧、回収利用に期待 京大など

2021.10.20

 二酸化炭素(CO2)を使って常温かつ常圧で、微細な穴を持ち有用な「多孔性材料」を作り出す手法を開発した、と京都大学などの研究グループが発表した。温室効果ガスであるCO2を産業界の排ガスや大気中から回収し、役立つ物質に変えて利用する「CCU(CO2回収利用)」技術への活用も期待される。

研究成果を基に描いたイラスト。CO2を使い常温常圧でMOFを作り出した(高宮ミンディ氏、京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点提供)
研究成果を基に描いたイラスト。CO2を使い常温常圧でMOFを作り出した(高宮ミンディ氏、京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点提供)

 無数の小さな穴に物質を吸着する多孔性材料は、身近な例では活性炭やゼオライト(沸石)があり、消臭剤や吸着剤に使われる。さらに性能の高い多孔性材料として、金属イオンと有機分子が自然に集まってできる「多孔性金属錯体(MOF)」を、京都大学の北川進特別教授が1997年に開発した。金属イオンと有機分子の組み合わせで、多彩な機能を生み出せる。既に9万種以上が開発され、一部はガス貯蔵などで実用化している。ただ、CO2を吸着するだけでなく、MOFの原料として利用する研究は進んでこなかった。

 そこで研究グループは、常温常圧のCO2からMOFを簡単に作る手法の開発を目指した。これまでの経験から着想を得て、有機分子「アミン」の一種の「ピペラジン」と、安価で無毒な亜鉛イオンを含む有機溶媒に、CO2を吹き込んだ。その結果、わずか数分間で、亜鉛イオンが全て無駄なく反応した場合の80%という高い割合で、高純度のMOFができた。

 このMOFの分子レベルの構造を調べると、CO2がピペラジンと反応して橋のような形になり、亜鉛イオンと連結していることが分かった。内部には1ナノメートル(ナノは10億分の1)の穴が規則的にあり、重さの30%以上をCO2が占めていた。理論計算により、CO2が亜鉛イオンと強い相互作用を持ち、安定して構造に取り込まれていることも分かった。

常温常圧のCO2を使ってできたMOFの結晶構造の図(左)と、ピペラジンとCO2が反応し、橋のような構造ができたことの解説図(京都大学提供)
常温常圧のCO2を使ってできたMOFの結晶構造の図(左)と、ピペラジンとCO2が反応し、橋のような構造ができたことの解説図(京都大学提供)

 CO2がピペラジンと反応することは既知のことだが、MOFの合成に使えるとの発想はこれまでなかったという。

9リットルのCO2から50グラムのMOFの粉末ができた(京都大学提供)
9リットルのCO2から50グラムのMOFの粉末ができた(京都大学提供)

 この手法がさまざまな条件で働くかどうか調べた。一度に9リットルもの大量のCO2から、50グラムのMOFの粉末ができることを確認。身の回りの空気中の低濃度(0.04%)のCO2からMOFを合成することにも成功した。またこのMOFにCO2を貯蔵させたところ、常温、26気圧の条件で、材料1グラムあたり、MOFを構成するもの0.3グラムと吸着分0.4グラムを合わせ、最大0.7グラムのCO2を含む結果となった。

 化石燃料の消費や森林伐採などにより、CO2が大気中に増加しているとされる。CO2を厄介者として扱うばかりでなく、逆に材料などとして利用できれば環境対策の切り札となり得る。ただ従来は多くの場合、CO2を有用な材料に変換するには、高温高圧での反応や、高価な貴金属の触媒が必須だった。金属イオンとアミンの組み合わせを工夫すれば、さまざま構造や機能を持った多孔性材料の合成や、不純物を多く含む工場の排ガス中のCO2など、資源化の対象の拡大も期待されるという。

 研究グループの京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点の堀毛悟史准教授(錯体化学)は「MOFにCO2を入れる研究はあっても、MOF自体をCO2で作る話はこれまでなかった。CCUの観点で価値のある成果になった。CO2をより高密度に詰め込ませたい。またCO2を吸収し、さらに有用な物質に変換させることまでできれば、より意義が高まるだろう」と述べている。

 研究グループは京都大学、理化学研究所、日本電子子会社のJEOL RESONANCEで構成。成果は米国化学会誌の電子版に4日付で掲載され、京都大学などが12日に発表した。

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