中外製薬は2種類のモノクローナル抗体医薬品を組み合わせた新型コロナウイルス感染症の治療法「抗体カクテル療法」を厚生労働省に承認申請した。米国での臨床試験(治験)では入院、死亡リスクを70%減らしたことが確認され、昨年秋には当時のトランプ米大統領に投与されて効果を発揮したとされる。申請は6月29日付で同社は国内審査を簡略化する特例承認の適用を要望している。
承認申請が行われたのは「カシリビマブ」と「イムデビマブ」と呼ばれる2製品。米製薬企業リジェネロンが創薬し、昨年8月に同社とスイス製薬大手ロシュが開発、製造、販売を共同で実施すると発表。その後両社は昨年11月、米食品医薬品局(FDA)から治療薬として緊急使用許可を取得した。中外製薬は昨年12月に日本国内での開発と販売権を取得している。同社は米国での治験(第Ⅲ相)や日本での初期段階治験(第Ⅰ相)データなどを厚労省に提出した。
中外製薬によると、カシリビマブとイムデビマブを組み合わせて投与することで、高い治療効果が期待される。ロシュ社が3月に公表したデータによると、4000人以上を対象にした治験では、1200ミリグラム、2400ミリグラムの静脈内投与ともに、偽薬投与群と比べて入院または死亡リスクをそれぞれ70%、71%低下させた。投与から169日までのデータでは安全性に問題はなかったという。また、約800人を対象にした別の治験では偽薬と比べて有意にウイルス量が減少していたという。
中外製薬の奥田修社長は厚労省への承認申請に際して「変異株の感染拡大など流行は長期化しており、新たな治療選択肢が必要とされている。抗体カクテル療法を新たな治療薬として一日も早く届けられるよう規制当局と緊密に協働していく」とコメントした。
カシリビマブとイムデビマブはいずれもモノクローナル抗体を製品化した医薬品。昨年10月にトランプ米前大統領に投与されて効果を発揮して早期退院の一因になった、などと当時米国メディアが伝えていた。
モノクローナル抗体は免疫細胞のB細胞がウイルスなど病原体やがん細胞などの異物に付いている目印の抗原に対して1種類の抗体を作るという特徴を利用した抗体。ロシュ社は「カシリビマブとイムデビマブはウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位に非競合的に結合することでウイルスに対して中和活性を示し、変異株にも効果を示すことが期待される」としている。
日本国内でこれまでに、抗ウイルス薬の「レムデシビル」、重度の肺炎やリウマチなどの治療に使われてきた炎症やアレルギーを抑える作用のあるステロイド剤「デキサメタゾン」、関節リウマチなどの薬で炎症を抑える効果がある薬「バリシチニブ」の、3つの薬が新型コロナウイルスの治療薬として承認されている。
関連リンク
- 中外製薬プレスリリース「カシリビマブとイムデビマブの抗体カクテル療法、COVID-19に対する治療薬として製造販売承認申請」
- 中外製薬プレスリリース「開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗体カクテル療法(casirivimab/imdevimab)に関する日本政府との合意について」
- 中外製薬「よくわかる抗体医薬品」