魚類は海水や淡水に含まれる大量のマイクロプラスチック(MPs)を、直接経口よりも餌を通して多く取り込んでいることが分かった、と北海道大学の調査研究グループが発表した。プラスチックごみによる海洋汚染は世界的な課題で、海洋生物への影響だけでなく魚介類を食べることによる人間の健康被害も懸念されている。食物連鎖を通じた生態系への影響を示す貴重なデータとして注目される。
北海道大学大学院環境科学院修士課程の長谷川貴章さんと同大学北方生物圏フィールド科学センターの仲岡雅裕教授は、同センターの実験所で肉食性魚類のシモフリカジカ(以下カジカ)とカジカの餌になる小さなイサザアミ類(以下アミ)、MPsを用いて飼育実験し、カジカのMPs摂取行動を観察した。
研究グループは、MPsとして粒径30マイクロメートルの蛍光ポリエチレン粒子を用い、カジカが直接MPsを摂取できるようにした水槽と、MPsが入っておらずカジカがMPsを摂取できない水槽を用意。MPsを摂取したアミをMPsがない水槽内に入れるなどの方法でカジカがMPsを摂取する実態を調べた。
実験の結果、カジカは水中から直接MPsを摂取する量よりも顕著に多い量を、餌のアミから取り込んでいることが判明。個数で8~11倍、質量で3~5倍だった。MPsはアミに取り込まれる過程で細粒化されるため、アミを通じてカジカの体内に取り込まれたMPsは直接摂取するものより粒径が小さくなっていたという。
研究グループは、MPsは細粒化されると生物の体内組織に移行して悪影響を与えるほか、食物連鎖を通じて有害物質が濃縮されることから食物連鎖の高次消費者(人間など)に影響を与える可能性がある、としている。
研究グループによると、魚類は海水中のMPsを直接経口だけでなく、餌の摂取によっても取り込むことは知られていたが、この2つの摂取経路の量の違いなどを詳しく調べた研究はこれまでなかったという。
海洋汚染を起こすプラスチックごみの総量は2050年には魚類の総量よりも多くなる、と国際会議や日本の環境白書などで指摘されている。特に粒径が5ミリメートル以下のMPsはあらゆる海中生物が取り込んでいるとの報告もあり、生態系への影響が懸念される。
2019年6月に政府が閣議決定した環境白書は「近年マイクロプラスチックによる海洋生態系への影響が懸念されて世界的な課題となっている」「1950年代以降生産されたプラスチック類は83億トン超で、63億トンがごみとして廃棄された」「毎年約800万トンのプラスチックごみが海洋に流出している」などと指摘している。
この研究成果は環境科学の専門誌「エンバイロメンタル・ポリューション」で1月9日に公開され、同29日に北海道大学が発表した。
関連リンク
- 北海道大学プレスリリース「魚類は餌生物を通じてマイクロプラスチックを大量に取り込む」