動物の体表の複雑な模様が、似ても似つかない単純な模様の混ざり合いによってできることが、魚の詳しい見比べやシミュレーション、遺伝情報を基にした大阪大学の研究で分かった。模様だけでなく、種の分化など進化の仕組みを理解するのに役立ち得る成果という。
シマウマやヒョウ、キリンなど、動物には体に特有の模様を持つものがある。さまざまな模様の機能については、天敵から逃れる擬態や体温調節、虫よけなどの仮説を基に、実証が試みられている。では、こうした模様はそもそも、どうやってできたのか。近年の研究により、昆虫の羽などにある単純な模様の一部は、体の特定の構造を持つ部分が、塗り絵のように色付いてできたと考えられている。一方、特段の構造がない部分の模様、とりわけ迷路のような複雑なパターンの模様ができた仕組みは、謎に包まれてきた。
そこで同大大学院生命機能研究科の宮澤清太招へい研究員(進化生物学)は、写真のデータベースで1万8114種に及ぶ魚類の模様を調べ、水玉(斑点)や縞、迷路などさまざまな模様に互いに関連性があるかを検討した。その結果、迷路模様を持つ種は意外にも、全く異なる水玉模様の種が近縁にいると出現しやすい、という傾向を見いだした。
またコンピューターのシミュレーションで白い水玉、黒い水玉の模様を持つ2種の仮想の動物を掛け合わせたところ、生まれてくる交雑の個体は必ず迷路模様になった。
このことから迷路模様の動物は、白い水玉と黒い水玉の種の交雑で模様が混ざって生じたのではないかと考え、モヨウフグ属の魚の模様とゲノム(全遺伝情報)とを突き合わせて検証した。フグの仲間はゲノムのサイズが小さいため研究しやすい。
その結果、迷路模様を持つ「タスジフグ」や「ナガレモヨウフグ」が、実際に白い水玉の種と黒い水玉の種の交雑で生まれており、種ではなかったことを突き止めた。さらなる分析で、他の主要な魚でもこうした模様の混ぜ合わせが生じ、模様の多様性につながっている可能性も浮かび上がった。ただ、迷路模様の全てがこのような混ざり合いで生じた訳ではないという。
動物の体の形や大きさなどの特徴は通常、近縁の種ほど似ており、遠い種ほど異なる。ところが宮澤氏によると、体の模様は系統が近い種の間でも全然似ていないことが多々ある。また“赤の他人”のような種の間で、模様がそっくりなことも珍しくないという。
宮澤氏は「動物で交雑により新しい種が生まれる可能性は極めて低いと、長い間考えられてきた。しかし、模様の混ざり合いが原因で種が生まれることも考えられるのでは」と提起。「今回明らかになった仕組みは、生物の多様性の謎を考えるヒントとなるかもしれない」と指摘している。成果は米科学誌「サイエンス・アドバンシズ」に3日掲載された。
関連リンク
- 大阪大学プレスリリース「動物のふしぎな模様、どうしてできる?」