スウェーデン王立科学アカデミーは7日、2020年のノーベル化学賞を、生物のゲノム(全遺伝情報)を効率よく編集する技術を開発したドイツ・マックスプランク研究所のエマニュエル・シャルパンティエ教授(51)と、米カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授(56)の女性2氏に授与すると発表した。日本人の2年連続受賞はならなかった。
両氏が開発した技術は「クリスパー・キャス9」と呼ばれる。細胞内の核に、編集したい遺伝情報を探し出すガイド役の塩基配列「クリスパー」と、クリスパーが見つけた遺伝情報を持つDNAを切断する酵素「キャス」を注入。遺伝情報を狙い通りに書き換えることができる。両氏は細菌が持つ編集機能を参考に共同研究を進め、2012年に発表した。
ゲノム編集技術は農産物の品種改良や遺伝子治療などで期待が高まっている。こうした中、クリスパー・キャス9は従来法に比べ効率よく高精度の手法として普及が一気に拡大。発表後、カビや害虫、干ばつに耐える作物の開発、がんの新治療法の臨床試験など、利用が進んでいる。
ノーベル財団は「遺伝子のはさみは、生命科学を新たな時代に突入させ、多くの意味で人類に最大の利益をもたらしている」と評価した。自然科学部門のノーベル賞を女性で分け合うのは初めて。両氏には2017年、日本国際賞が贈られた。
九州大学の石野良純教授が1980年代にゲノム編集のルーツとなるクリスパーを大腸菌で発見し、大きく貢献している。
賞金計1000万スウェーデン・クローナ(約1億1800万円)が両氏に贈られる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、受賞者は12月10日にスウェーデンで開かれる授賞式に出席せず居住国で表彰を受ける。
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