日本が面する西部北太平洋では、中層の栄養分が海底地形の影響を受けた海水の上昇によって表層に送られていることが分かった、と北海道大学など日本とロシアの研究グループが発表した。この海域が豊かな水産資源を育む仕組みを解明した成果となり、気候変動の影響の予測などに役立つという。
西部北太平洋は世界の海洋面積の6パーセントに過ぎないが、水産資源の26パーセントを生み出すとされ、サケ、マスなどの漁獲に恵まれている。植物プランクトンが豊富にある原因など、盛んな生物活動を生む仕組みは未解明だった。
オホーツク海やベーリング海など北太平洋の縁辺の海は、大部分が各国の排他的経済水域であり、一国による観測は難しい。このため、日露がともに船舶を出して共同研究を実施。辺縁一帯で水深ごとの栄養分の濃度や海水の動きを調査した。
分析した結果、次のような栄養分の循環の仕組みが明らかになった。
(1)表層の植物プランクトンが、死骸となって沈みながら分解され、硝酸塩やリン酸塩などの「栄養塩」ができる。これらが水深数百メートルから千メートル付近の中層に高濃度で蓄積する。
(2)千島列島やアリューシャン列島の周辺では外洋の100~1万倍の、水の強い上昇がある。これは潮汐によって動く海水が、複雑な海底地形とぶつかることで生じている。
(3)中層に蓄積していた(1)の栄養塩が(2)の水の動きにより表層に移動し、再び植物プランクトンの栄養になる。
(4)一方、オホーツク海の大陸棚にたまっている高濃度の鉄分は、海水の中層の動きによって栄養塩と混ざり、西部北太平洋へと広がって植物プランクトンに取り込まれる。
北太平洋は「海洋コンベアベルト」と呼ばれる地球規模の海水大循環の出口で、深層の水が表層へと動いているとされており、これによって栄養塩が表層に供給されているとも考えられた。ただ深層の重い水が上の軽い水と入れ替わることは一般的に考えにくく、実際のところはよく分かっていなかった。
成果は気候変動による海洋の炭素循環、栄養物質の循環の変化を予測するための重要な手がかりとなる。グループの北海道大低温科学研究所の西岡純准教授(化学海洋学)は「海水の動きは、オホーツク海などの凍結の影響も受けている。気候変動で凍結が減ると水の動きが変わる可能性があり、水産資源などへの影響の予測が課題となる」と述べている。
グループは北海道大学、東京大学、長崎大学、ロシア極東海洋気象学研究所で構成。成果は学術誌「米科学アカデミー紀要」の電子版に5月26日に掲載された。
関連リンク
- 北海道大学などプレスリリース「海洋コンベアベルトの終着点における栄養物質循環の解明」