従来の可視光による望遠鏡観測では見えなかった110億年も昔の宇宙の銀河を39個も見つけたと、東京大学と国立天文台の研究グループがこのほど発表した。可視光より波長が長いサブミリ波を捉えることができる南米チリのアルマ望遠鏡による観測成果だ。研究論文は8月7日に英科学誌「ネイチャー」に掲載された。
世界の天文学研究者は、これまでさまざまな望遠鏡を使って遠い宇宙を、つまり過去の宇宙を観測し、生まれたての銀河や活発に星を生み出す銀河を発見してきた。輝かしい観測成果を上げた代表格は米航空宇宙局(NASA)のハッブル宇宙望遠鏡だ。宇宙空間から観測できるため鮮明な銀河など数多くの天体画像を地上に届けてきた。
しかし、ハッブル宇宙望遠鏡は可視光と近赤外線で宇宙を見る。銀河からの可視光や近赤外線と赤外線の光は宇宙の塵(ちり)によって吸収されてしまい、地球やハッブル宇宙望遠鏡には届かない。
東京大学附属天文学教育研究センターの河野孝太郎教授や同センターと国立天文台の特任研究員を兼務する王涛(わん たお)さんらは、初期宇宙に存在する誕生直後の銀河を見るには、可視光や近赤外線、赤外線より波長の長い光であるサブミリ波を観測する必要があると考え、南米チリに設置したアルマ望遠鏡でサブミリ波を観測した。
観測対象にしたのは、ろ座、ろくぶんぎ座、くじら座の3星座の中に含まれる「CANDELS領域」。この領域の中から、ハッブル宇宙望遠鏡の画像には写っていないものの、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡による観測画像に写っている天体を63個選出。アルマ望遠鏡を使いサブミリ波による詳細な観測を行った。スピッツァー宇宙望遠鏡は中間赤外線を捉えることができて遠方天体の観測に威力を発揮している。しかし解像度が低く、それらの天体の正体は明らかになっていなかった。
河野教授らがアルマ望遠鏡を使ってサブミリ波を観測した結果、63個の天体のうち39個からサブミリ波を検出することに成功。解析の結果、39個の天体は110億年以上前に存在した巨大な銀河だったことが判明した。この巨大な銀河の中では星が活発に生まれていて、銀河の質量は太陽の数百億倍から1000億倍だった。規模を比べると太陽系を含む天の川銀河と同じか、やや小さいながらも、星を生み出すスピードは天の川銀河よりも推定100倍以上。こうした銀河はその後の長い長い宇宙の進化の過程で、年老いた星で構成される巨大な楕円銀河になっているとみられるという。
これまでの宇宙進化理論では、ビッグバンで宇宙が誕生した138億年前から(宇宙の時間スケールでは)さほど経っていない110億年以上前の宇宙では、星を活発に生む巨大銀河はそれほど存在できなかったと考えられていた。このため今回の観測結果は宇宙進化理論に新たな謎を提供した形で、研究グループは今後次世代の高性能望遠鏡などによる新たな研究成果が待たれるとしている。
研究グループの一人である王さんは「今回の成果は、宇宙や銀河の進化に関する私たちの理解に挑戦状をたたきつけたといってもいいでしょう。アルマ望遠鏡を駆使した更に詳しい観測に加え、近未来に打ち上げが期待される宇宙望遠鏡などによる観測で、この謎に挑みたい」とコメントしている。