強烈な体験をするとその前後のささいな出来事も覚えていることが多いという記憶の連動の仕組みを富山大学と東京慈恵会医科大学の研究グループが明らかにした。研究成果はこのほど英科学誌に掲載された。記憶が連動するのは、それぞれの出来事を記憶する脳の神経細胞の領域が重複しているためだという。研究グループは心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療法につながる可能性もある、としている。
富山大学大学院医学薬学研究部の井ノ口馨(いのくち かおる)教授(脳科学)らによると、例えば東日本大震災が起きる前のランチに何を食べたか、といった出来事を覚えている人が多いことが知られており、そのような現象は実験動物でも報告されて「行動タグ」と呼ばれている。しかしその仕組みは分かっていなかった。
研究グループは、マウスにささいな出来事と強烈な体験を記憶させるためにそれぞれ「新奇物体認識課題」「新規環境暴露」と呼ばれる実験をした。新奇物体認識課題としてマウスが好奇心を示す物を四角い形の箱に入れた。新規環境暴露としてはマウスを慣れない立方体や円柱の形の箱に入れた。
さらに記憶の有無を調べる実験をした結果、ささいな出来事だけを体験させたマウスは24時間後にはその出来事を忘れていた。しかし、ささいな出来事を体験させる前後1時間以内に強烈な体験もさせると24時間後もそのささいな出来事を覚えていることが分かった。次に強列な体験をさせたマウスの脳の海馬の神経細胞を調べると、ささいな出来事、強烈な体験それぞれを記憶した神経細胞の領域の大部分が重なっていることも判明したという。
研究グループは、トラウマになった記憶と日常的な記憶を引き離す手法が開発されれば、将来的にはPTSDの治療にも使える可能性がある、としている。この研究は、科学技術振興機構(JST)の「戦略的創造研究推進事業」(CREST)の一環として実施された。
関連リンク
- JST・富山大学・東京慈恵会医科大学プレスリリース「強烈な体験によってささいな出来事が長く記憶される仕組みを解明」