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“爆発衝撃波”の脳影響を解明

2014.01.16

 “爆発”は戦闘地域や爆弾テロに限らず工場での事故や、隕石落下、火山爆発などの自然現象でも発生する。爆発に伴って、爆風よりも先立って脳に重大な影響を及ぼすのが衝撃波だが、これまでその作用のメカニズムについては不明だった。東京農工大学大学院の西舘泉・准教授と防衛医科大学校防衛医学研究センターの研究グループは、ラット使った実験で、レーザーによって引き起こした衝撃波が脳に及ぼす現象を再現し、解析することに成功した。

 爆発が起きると、先ず急激な圧力上昇を伴う衝撃波が発生し、それに続いて、強い気流(爆風)が生じる。世界各地の戦闘地域や頻発する爆弾テロでは、市民などを含めて、爆風による多くの頭部外傷患者が発生しているが、MRIやX線CTなどの画像診断で特段の異常が認められずに「軽症」と診断されても、記憶障害や高次の脳機能障害、「心的外傷後ストレス障害」(PTSD)などの後遺症が高い確率で起こり、深刻な問題となっている。実は、これらの脳機能に最も大きな影響を与えるのは、爆発によって発生する衝撃波だと考えられているが、爆薬を使う実験には安全上や倫理上の制約もあって、ほとんど研究されていないのが実情だ。

 研究グループは、高強度のパルスレーザーの照射で引き起こされる衝撃波(レーザー誘起衝撃波)に着目した。ラット頭部に、脳をリアルタイムで診断するための光ファイバーや脳波計測用電極を設置し、その近くでレーザー誘起衝撃波を発生させた。

 その結果、衝撃波の作用点では、脳細胞のイオンバランスが崩れた“過興奮状態”となり、それが波のように毎分数ミリメートルの速さで脳内に拡がる現象(拡延性脱分極)がみられた。その波の拡がりに伴い、最初の数分間は脳血管が拡張して高酸素状態となり、その後一転して、脳血管が収縮して酸欠状態(低酸素血症)となって、1時間から数時間にわたって続いた。コンピュータ解析の結果、この現象によって、血中の酸素量は正常時より最大40%低下することが分かった。

 研究グループによれば、このような現象は脳に出血や組織損傷(挫傷)を生じなくても、衝撃波の刺激のみで発生する。長時間の酸欠状態は脳細胞に異変を生じさせ、脳機能障害を引き起こす可能性があることから、「拡延性脱分極とそれに伴う低酸素状態をコントロールすることが、頭部外傷患者の治療のために重要だ」と述べている。研究成果は、爆発が生体に及ぼす傷害の予防や治療の研究に貢献するものと、期待されるという。

 研究論文“Real-Time Optical Diagnosis of the Rat Brain Exposed to a Laser-Induced Shock Wave: Observation of Spreading Depolarization, Vasoconstriction and Hypoxemia-Oligemia”は、オンライン科学誌「プロス・ワン(PLOS ONE)」に掲載された。

レーザー照射の様子(提供:いずれも東京農工大学)
レーザー照射の様子(提供:いずれも東京農工大学)
「観測結果の図解」レーザー誘起衝撃波の発生後、血管が拡張して高酸素状態になるが、数分後、一転して血管は収縮、酸欠状態(低酸素血症)になる。(提供:いずれも東京農工大学)
「観測結果の図解」レーザー誘起衝撃波の発生後、血管が拡張して高酸素状態になるが、数分後、一転して血管は収縮、酸欠状態(低酸素血症)になる。(提供:いずれも東京農工大学)

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