深海に生息し、グロテスクな姿で知られるミツクリザメは、顎を素早く突き出して瞬時に餌を捕らえる特異な捕食行動をすることを、北海道大学などの研究グループがこのほど映像解析で明らかにした。サメ類の多くは浅海に生息しているが、深海ザメの「飛び出す顎」は餌が少ない深海で生きるための適応の結果という。
ミツクリザメは1898年に日本で発見された深海ザメ。薄桃色の体と歯がむき出しになったグロテスクな姿から欧米では「悪魔のサメ」と呼ばれている。捕食行動など詳しい生態は不明で、顎が前方に飛び出すことは知られていたが捕食時にどのように使われるかは謎だった。
この深海ザメは発見から1世紀以上経過しても謎が多かったが、日本放送協会(NHK)は2008年と11年に東京湾でその捕食行動を撮影することに世界で初めて成功。北海道大学の仲谷一宏(なかや かずひろ)名誉教授(前大学院水産科学研究院教授)は、NHKの番組作りにも参加していたが、今回NHKの了解を得てミツクリザメが餌にかみ付く様子をとらえた映像を3〜13ミリ秒単位の分解写真にして詳しく解析した。
その結果、ミツクリザメは、餌を見つけると顎を120度近くまで大きく開き、顎全体を前方に突出させながら閉じる、という行動をわずか約0.3秒の間に行いこの間に素早く捕食することが分かった。顎が飛び出す速度は秒速 3.14メートルで魚類最速で、顎が突出する長さも体長の約9%もあったという。
研究グループは、深海に生息するミツクリザメは遊泳速度が遅いことから、今回明らかになった特異な顎の動きは餌になる生物が少ない深海で獲物を確実に捕らえるための適応の結果と結論付けた。
ミツクリザメは、日本では東京湾、駿河湾、相模湾などで、このほか世界各地の深海での生息が報告されている。体長は大きいものでは5、6メートルもある、とされている。
今回の研究には、沖縄美ら島財団(沖縄県・本部町)や下関市立しものせき水族館(山口県・下関市)やNHKなどが協力した。
関連リンク
- 北海道大学プレスリリース「“悪魔のサメ”の驚きの捕食行動を解明」