人工多能性幹細胞(iPS細胞)の将来の臨床応用に道を開く成果がまたひとつ生まれた。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者から作製したiPS細胞で、遺伝子改変技術を用いて病気の原因遺伝子のジストロフィンを修復することに、京都大学iPS細胞研究所の大学院生の李紅梅(り こうばい)さんと堀田秋津(ほった あきつ)助教らが初めて成功した。iPS細胞を利用した将来の遺伝子治療の可能性を示す成果といえる。11月26日付の米科学誌Stem Cell Reportsオンライン版で発表した。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、体が次第に動けなくなる難病の筋ジストロフィーのうち、最も頻度が高いタイプで、男性にのみ発症する。ジストロフィンという遺伝子に変異が生じ、筋肉が萎縮して衰弱が進行していく。患者のiPS細胞でジストロフィン遺伝子を修復できれば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子治療につながると期待されているが、30億塩基で構成される巨大なヒトゲノム(全遺伝情報)の中で、ジストロフィン遺伝子のたった1カ所の変異だけを精密に修復するのは至難の業だった。
研究グループはまず、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者からiPS細胞を作製した。次に、予期しない場所でDNA切断が起きないようにするため、ゲノム上に1カ所しかない配列のデータベースを作成し、その情報を基に遺伝子の切断部位を決めた。ジストロフィンタンパク質の機能を取り戻すため、研究グループは患者のiPS細胞に遺伝子操作をした。試みた3つの手法のうち、Exon 44 knock-in法が最も効果的な方法だった。
さらに、核型やコピー数多型、エクソームの遺伝情報解析で、遺伝子変異が最も少ないiPS細胞を選んだ。それを骨格筋細胞へと分化させたところ、正常なジストロフィンタンパク質を発現した。
堀田秋津助教は「特異的な遺伝子配列データを使って、狙ったところだけを修復できた。修復したiPS細胞由来の筋肉細胞をどのように移植するかなど、課題はいくつも残っているが、iPS細胞による将来の遺伝子治療に向けて一歩となる。デュシェンヌ型筋ジストロフィー以外の遺伝子変異疾患にも使える手法だろう」と指摘している。
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