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見えなくても手の動きは脳でわかる

2014.08.21

 生まれつき目が見えなくても、芸術家やスポーツ選手など社会で活躍している人たちはたくさんいる。その謎の一端を、生理学研究所の北田亮(きただ りょう)助教らが機能的磁気共鳴画像法(fMRI)による脳の測定で解明した。人が他者の手に触れてその動作を識別している時の脳の活動を測り、生まれつき目が見えない人でも、目が見える人と同じように、脳のネットワークの一部が活動することを確かめた。7月23日付の米科学誌The Journal of Neuroscienceに発表した。

 生まれつき目が見えない人も、視覚以外の感覚を活用して、相手の動作の理解や学習はできる。目の見えない人の脳は、目の見える人に比べてどのように働いているか。こうした疑問から研究に取り組んだ。脳には、相手の動作を認識するために働くネットワークがあって、AON(Action Observation Network)と呼ばれ、脳の視覚野の一部(Extrastriate Body Area、EBA)と重なり合う。脳のこれらの部位がどのような機能を果たしているかをfMRIで調べた。

 視覚障害者28人(生まれつき目が見えない18人と中途失明の10人)と、目の見える28人を対象に脳の活動を測定した。それぞれ28人は年齢や性別を一致させて比較した。手をかたどった模型、急須の模型、車の模型を各4種類、制作して、実験参加者が目を閉じた状態で模型に触り、手の動作や急須、車に触れた場合、それぞれの種類を4択で当てさせた。これを触覚識別課題とした。さらに触覚課題の後に、目の見える人には同じ模型を見て当てる視覚識別課題を実施した。

 急須や車の認識時に比べて手の動作の識別時に強く活動する脳部位を、AONとして特定した。目の見える人では、触覚課題でも視覚課題でも、脳のEBA・縁上回の活動が観察された。これらの脳領域の活動は、目の見えない人でも確認できた。その結果、AONが感覚に関係なく駆動するだけでなく、視覚の経験の有無にかかわらず、発達することがわかった。

 研究グループの北田亮さんは「今回の研究は『目が見えなくても、なぜ他者の手の動きを認識、学習することができるか』という理由を説明し、早期に失明した子どもの社会能力の発達を考えるのに重要な知見となる。視覚経験に関係なく、社会的に活躍できることの根拠にもなるだろう」と話している。

fMRIによる脳の測定実験に用いた模型
図1. fMRIによる脳の測定実験に用いた模型
細菌感染に対して炎症性単球の細胞膜で起きる変化
図2. 生まれつき目が見えない人でも、目が見える人でも手の動作を認識している時に強く活動する脳部位のfMRI画像。黄色の領域は、目の見えない人と目が見える人で手の動作の認識時に共通して活動する脳部位。視覚経験に関係なく縁上回とEBAの一部が活動していた。水色の部分は視覚から得られる身体の情報を専ら処理する脳部位(EBA)を示す。
(いずれも提供:生理学研究所)

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