ヒトは1分間に15-20回のまばたきをするという。眼球を潤すだけならば1分間に3、4回で十分なのに、なぜか。その回答として、大阪大学大学院生命機能研究科の中野珠実准教授らと脳情報通信融合研究センター、情報通信研究機構の研究チームは、まばたきをするたびに、周囲に注意を向ける神経領域の活動が低下し、脳をリセットするような現象が起きていることを発見した。脳の情報処理のメカニズムの解明などにつながるという。
研究チームは、大学生10人に英国の人気コメディー番組「ミスター・ビーン」のビデオ映像を見せ、脳のどの部分が活動しているかを機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で観察した。その結果、まばたきに伴って、前頭葉の眼球運動をつかさどる領域と頭頂葉の一部にある「注意の神経ネットワーク」領域の活動が低下し、その一方、前頭葉内側部や頭頂葉内側部などにあって、記憶の想起や他者心理の推定などの内的思考に関わる「デフォルト・モード・ネットワーク」領域の活動が上昇した。まばたきに似せて、黒い画像を一瞬映像の途中にはさんだ場合は、こうした現象は起きなかった。
「注意の神経ネットワーク」と「デフォルト・モード・ネットワーク」は、ぼんやりした状態では、数十秒ごとに一方が休むと他方が休むという活動の交替を示すことが知られていた。今回の研究で、何かに集中して取り組んでいるときにも、数秒に1回のまばたきによって、2つのネットワークの切り替えが起きることが分かった。
研究チームはこれまで、映画の意味の切れ目でまばたきが起きることを発見している。今回の結果と合わせると、まばたきは「1つのストーリーの流れに区切りをつけて注意を解除し、また新たな展開のために脳を開放するという重要な役割を果たしているのではないか」と言う。