東京電力福島第一原発事故(2011年3月)に伴い森林に降下した放射性セシウムは、2年以上たっても、土壌の深さ10センチメートルまでの表層にとどまり、地下水によって周辺地域へは流出しにくいとする研究結果を、日本原子力研究開発機構の環境動態研究グループがまとめた。
研究チームは福島第一原発から南西約65キロメートルの茨城県北部の落葉広葉樹林で、2011年5月から13年7月まで、放射性セシウム濃度の、表層の落ち葉層から下層の土壌への移動変化を、土壌中に埋めた「ライシメーター」という浸透水を採取する装置を使って連続的に測定した。
その結果、放射性セシウム137を指標として分布状況をみると、落ち葉層から深さ10センチメートルまでの総蓄積量は1平方メートル当たり約20キロベクレルと調査期間中ほぼ変わらなかったが、事故後数カ月以内に大部分(同約16キロベクレル)が、落ち葉層から深さ5センチメートルまでの土壌に浸透していた。11年12月以降は全体の分布にほとんど変化はなく、深さ5-10センチメートルの土壌の蓄積量は1平方メートル当たり1キロベクレル程度のままだった。こうした傾向は、国や他の大学・研究機関の調査結果とも合っていた。
浸透水を分析すると、放射性セシウムの濃度は「溶存態有機炭素」の濃度変化にも一致し、温度の上昇とともに増加する傾向を示した。溶存態有機炭素は落葉・落枝の分解によって溶出するもので、温度の上昇によって落葉・落枝の分解が進み、付着していた放射性セシウム137が一緒に土壌に浸透したとみられる。
このため、落ち葉層から土壌への放射性セシウムの移動は、事故後から1年以内は主に雨水の洗い出しによって起こり、それ以降は落葉・落枝の分解により緩やかに進行していることが明らかになった。放射性セシウムは、今後も10センチメートルより深くまで移動する割合は小さく、地下水を経由して森林地帯から周辺地域には流出しにくいと考えられるという。
今回調査した森林の土壌は「褐色森林土」と呼ばれ、表層は有機物の蓄積により黒色味が強く、深くなるほど褐色になる。日本の落葉広葉樹林、あるいは落葉広葉樹と常緑針葉樹の混合林の下に広く分布し、福島県の山間部の約7割がこの褐色森林土だ。研究チームは今後、土壌表層に蓄積した放射性セシウムが、森林生態系の内部循環にどのように取り込まれるかなどを研究調査する。