オスの精子や精子形成細胞にダメージを与えるとされる活性酸素が逆に不足すると、精子を作る基となる「精子幹細胞」の増殖が抑えられることが、京都大学の篠原隆司教授、森本裕子同研究員らのマウスを使った実験で分かった。活性酸素不足が男性不妊症の原因となる可能性を示したもので、不妊治療や細胞の保存技術の開発に役立つ成果だという。研究論文は、6日発行の科学誌『Cell Stem Cell』に掲載された。
研究グループは、試験管内でマウスの精子幹細胞を培養した後、薬剤を使って活性酸素を低下させたところ、精子幹細胞の増殖が抑えられた。逆に、過酸化水素を加えて活性酸素を増加させると精子幹細胞は増殖し、長時間培養を続けると正常な精子に変化することも分かった。また、体内で活性酸素の発生に関わる遺伝子(NADPH oxidase1遺伝子)を持たないマウスを調べたところ、精子幹細胞の増殖能力が著しく低下していた。
活性酸素は化学反応性の高い酸素分子の総称で、異常な増加は細胞膜や遺伝子などに影響を与え、老化やがんを引き起こすと考えられている。オスの生殖細胞のほか、卵子の染色体異常、受精卵の細胞死にも関与することが知られていた。研究グループは「”適度な量の活性酸素”が精子幹細胞の生存と増殖に必要なことが明らかになった。不妊患者への治療のあり方を幹細胞のレベルから見直す必要がある」と述べている。