ニュース

魚の精巣凍結で絶滅危惧種の保存が可能に

2013.01.15

 東京海洋大学の吉崎悟朗教授の研究グループは、ニジマスの精巣を液体窒素内で凍結保存する方法を開発し、解凍後の精巣から取り出した精子の元になる細胞「精原細胞」を別なニジマスに移植し、精子と卵を得ることに成功した。さらにこれらを人工授精させて、正常な次世代のニジマスを生産することに成功した。これまで難しかった魚類の種の保存研究において画期的な新技術となるもので、絶滅危惧種の保全などに大きく貢献するものと期待される。

 発表によると、研究グループは、ニジマスの精巣を丸のまま取り出して、糖類のトレハロースや鶏卵の卵黄を含む保存液に浸した後、-1℃/分というゆっくりとした速度で-80℃まで冷却し、その後液体窒素中で凍結した。1日から728日間凍結し解凍したところ、精巣中に含まれる精原細胞の約30%が生残していた。理論的には、液体窒素内で細胞を一旦凍結した場合には、半永久的に保存が可能だという。

 次に、98日間凍結した精巣をばらばらにして、これを孵化直後のニジマスの稚魚に移植した。この稚魚は、染色体のセットが通常よりも多い完全不妊の「3倍体ニジマス」で、継続飼育した結果、凍結精巣由来の精原細胞は雄ニジマスの精巣内で正常な精子を、雌ニジマスの卵巣内では正常な卵を生産した。精原細胞の一部は幹細胞として、卵と精子の両方に分化する能力があるという。さらに、得られた卵と精子を人工授精したところ、正常な次世代のニジマスを大量生産することにも成功した。

 この他にも研究グループは、精原細胞の異種間移植により、ヤマメにニジマスを生ませることや、クサフグにトラフグを生ませることにも成功したという。

 生殖細胞の凍結保存は、哺乳類などではよく行われているが、魚類での卵はサイズが大きく(哺乳類の10-80倍の直径、体積ではその3 乗)、脂肪分に富むことなどから、卵や胚の凍結保存研究は全く進んでいなかった。今回開発された精巣凍結技術と異種間移植を組み合わせることで、絶滅危惧種の精巣さえ凍結しておけば、卵や精子、次世代の個体を生産できるようになる。研究グループは、絶滅したとされていながら2010年に山梨県・西湖で再発見されたクニマスの精巣凍結や、米国で絶滅に瀕しているベニザケの保存プロジェクトなどに取り組んでいる。

関連記事

ページトップへ