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ファイバー状にした培養細胞

2013.04.03

 細胞を微細なチューブの中に入れて培養することで長さ数メートルの繊維状の細胞組織(「細胞ファイバー」)を作り、これを生体内に移植して正常に働かせる技術を、東京大学生産技術研究所の竹内昌治准教授や尾上弘晃助教らのグループが開発した。糖尿病のマウスにすい臓の細胞で作った細胞ファイバーを移植したところ、マウスの血糖値を正常化させることにも成功した。細胞ファイバーは織ったり巻いたり、束ねたりして立体化できるので、さまざまな傷病の治療や再生医療に応用が期待されるという。

 研究グループは、半導体の微細加工技術で使われるマイクロ流体デバイスを用いて、細胞ファイバーを作った。食物繊維の一種のアルギン酸を基としたゲル状の材料で微細チューブ(外径約0.2ミリメートル)を作り、その中にコラーゲンやフィブリンなどのタンパク質と目的の細胞を混ぜたものを流し込んで培養し、最終的にはチューブだけを溶かし去った。これにより、培養細胞を外径約0.1ミリメートル、長さ数メートルのファイバーができた。

 いろいろな種類の細胞でファイバー作製を試みた結果、神経細胞で作製した細胞ファイバーは、ファイバー内で神経ネットワーク様の構造が作られ、神経シグナルがファイバー内を伝達することが確認された。血管の内皮細胞で作製したものは、培養細胞が血管様のチューブ構造を作った。心筋の細胞では、培養した細胞が伸縮運動をして、細胞ファイバー構造全体を動かした。

 さらに、ラットのすい臓から分離した膵島(ランゲルハンス島)細胞で細胞ファイバーを作製し、これを糖尿病疾患モデルのマウスの腎臓にカテーテルで注入したところ、膵島細胞のファイバーからインスリンが分泌され、高血糖だったマウスの血糖値が正常値の範囲に回復した。同じ細胞数の膵島細胞をそのままマウスに移植しても血糖値を正常化しなかったことから、細胞ファイバーの移植がより効果的なことが示されたという。

 研究グループでは、細胞ファイバーをたて糸・よこ糸にして織る「織機」を試作し、数センチメートル四方の大きさの布状組織を作ったほか、コイル状に巻き取った立体構造も作った。筋肉や神経などのファイバー状組織、さらには、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から誘導された細胞を用いて3次元組織を作ることも可能になるという。

 研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ERATO「竹内バイオ融合プロジェクト」(リーダー・竹内准教授)として行われた。研究論文“Metre-long cell-laden microfibres exhibit tissue morphologies and functions”は英科学雑誌「ネイチャー・マテアリアルズ(nature materials)」に掲載された。

A. 伸縮運動をする心筋ファイバー。
B. 管腔様構造を形成する血管内皮ファイバー。(緑:アクチン、青:細胞核)
C. ファイバー長軸方向に配向した大脳新皮質細胞ファイバー。(緑:ニューロン)
D. 神経幹細胞からニューロンとグリア細胞に分化した神経幹細胞分化誘導ファイバー。
(緑:ニューロン、紫:グリア細胞、青:細胞核)
 (提供:東京大学 生産技術研究所)
A. 伸縮運動をする心筋ファイバー。
B. 管腔様構造を形成する血管内皮ファイバー。(緑:アクチン、青:細胞核)
C. ファイバー長軸方向に配向した大脳新皮質細胞ファイバー。(緑:ニューロン)
D. 神経幹細胞からニューロンとグリア細胞に分化した神経幹細胞分化誘導ファイバー。
(緑:ニューロン、紫:グリア細胞、青:細胞核)
(提供:東京大学 生産技術研究所)

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