肌の潤いや張りをよくし、関節の動きを円滑にしてくれるヒアルロン酸。その分解に働く遺伝子を、カネボウ化粧品・価値創成研究所(神奈川県小田原市)と慶應義塾大学の研究チームが特定した。この遺伝子の働きを抑えることで、皮膚の老化防止や関節治療などにつながるものと期待される。研究論文が「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS)」(オンライン版、18日)に掲載された。
ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の2つの糖が交互に数万も結合した巨大分子の多糖で、生体では目の硝子体や関節液、皮膚などで高濃度に存在する。とくに皮膚のヒアルロン酸は全身の50%以上を占め、水分の保持や弾力性の維持のほか、創傷の治癒(ちゆ)、皮膚細胞の増殖などにも関わる。関節では関節液や軟骨組織に含まれて、関節の動きを滑らかにし、衝撃を吸収する機能を担っている。こうしたヒアルロン酸は活発な合成と分解によって日々置き換わっているが、そのバランスが崩れると、加齢に伴って皮膚で減少したり、関節リウマチや変形性関節症などが起きてくる。しかしヒアルロン酸の分解のメカニズムについては、これまで十分に解明されていなかった。
研究チームは、ヒトの皮膚線維芽細胞で働く数万の遺伝子を解析し、「KIAA1199」という遺伝子の働きを抑えた場合にのみ、ヒアルロン酸分解が顕著に低下することを突き止めた。ヒアルロン酸を分解できない細胞に「KIAA1199」遺伝子を導入したところ、細胞が新たにヒアルロン酸を分解する能力を獲得した。また「KIAA1199」遺伝子は、関節リウマチや変形性関節症の患者で異常に働き、ヒアルロン酸が盛んに分解されていたという。
なお「KIAA1199」遺伝子は初め、先天性難聴患者から“難聴遺伝子”として発見された。その後、胃がんや大腸がんの細胞や組織、「早老症(ウェルナー症候群)」患者の細胞でも働きが増加していることが報告され、これらの疾患との関わりが指摘されている。