月の表側の大半に黒っぽく広がる「プロセラルム盆地」ができたのは、38億年以上も前に巨大な天体が衝突したのが原因であることを、産業技術総合研究所・ジオインフォマティクス研究グループの中村良介研究グループ長と石原吉明研究員らが、月探査衛星「かぐや」のデータを解析して裏付けた。
月の地球に面した表側には、クレーターが少なく、光の反射率が低くて暗く見える「海」と呼ばれる低地(盆地)の領域が広がる。月の裏側には、光の反射率が高くて明るく見える「高地」が広がり、クレーターも多いが、「海」はほとんどない。こうした月の表裏の「二分性」は、月の形成初期の超巨大衝突によって表側の「高地」を構成する地殻物質の多くが取り除かれたためと考えられるが、物質科学的な証拠は見つかっていなかった。
研究グループは、月探査衛星「かぐや」が2007年12月から09年6月までに月面の約7000万地点で観測した「可視赤外線反射率スペクトル」のデータを用いて、天体表面への高速度衝突によって溶融してできた物質「衝突溶岩物」に多く含まれる「低カルシウム輝石」の分布状況を調べた。その結果、月の表側で直径3,000キロメートルの円状の分布を発見し、プロセラルム盆地の広がりに重なっていることが分かった。
月面に衝突した天体のサイズは、直径300キロメートルぐらい。月面の地殻の厚さも表側で薄いことから、本来ならば表側の「高地」だったところが超巨大衝突によって完全にはぎ取られ、深部から溶岩が噴出して「海」が広がったのではないかと考えられるという。