静岡県・駿河湾から九州沖を震源とする「南海トラフ」の巨大地震について、国の2つの有識者会議は29日、太平洋岸では震度7の激しい揺れと最大で34メートル(m)の津波が襲い、最悪の場合、死者数は32万3000人に上り、238万6,000棟が倒壊・焼失、流失するなどの被害想定を発表した。早めの避難や耐震化対策などで、被害は大幅に減らすことができるとしている。
専門家からなる2つの有識者会議は、内閣府の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」(座長、阿部勝征・東京大学名誉教授)と中央防災会議の「南海トラフ巨大地震対策ワーキンググループ」(主査、河田惠昭・関西大学教授)。同検討会は今年3月に一部公表した震度や津波の高さを見直し、同ワーキンググループでは死者数や建物などの被害を推定した。今回の想定では、南海トラフ陸側の複数の震源域が連動してマグニチュード(M)9クラスの地震が発生した場合を仮定し、発生の季節や時間帯などを変えた複数のケースを考慮した。
このうち、津波の高さは高知県の黒潮町と土佐清水市で最大34mとなり、8都県23市町村で20mを超える。浸水域は24都道府県の1,015平方キロメートルに及び、これは東日本大震災の1.8倍の広さ。死亡率が高まる水深1m以上は、602平方キロメートにもなるという。
死者数が最悪となるのは、在宅率の高い冬の強風の深夜に、駿河湾から紀伊半島沖の領域で地震が発生した場合で、23万人が津波によって死亡し、8万2,000人が建物倒壊、1万1,000人が火災で死亡する。建物の全壊・焼失が最悪となるのは、暖房や調理の火を使う冬の強風の夕刻に、四国沖から九州沖での発生ケースで、揺れで134万6,000棟が倒壊し、火災で74万6,000棟が焼失、さらに津波で15万4,000棟が流失する。
今回の被害想定では、防災対策による減災効果も示している。多くの人が迅速に避難し、「避難ビル」などを利用した場合は、津波の犠牲者は80%少なくなり、建物の耐震化率を現状の79%から100%に引き上げれば、建物倒壊は40%減らせ、死者数も大幅に減らせるという。