ヒトの生体で24時間周期を刻む「体内時計」の時刻を、採取した血液から簡単に知る方法を、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの粕川雄也専門職研究員や慶應義塾大学先端生命科学研究所の杉本昌弘特任講師などの研究チームが開発した。
ヒトの体内時計は、睡眠や目覚めなどの行動、生理現象に関わるさまざまなホルモンの分泌、心臓や血管の障害の発症などにも影響している。しかし体内時計には個人差があり、健康な人でも5-6時間、交代制の勤務者の場合は10-12時間もの幅でばらつきがあるという。
研究チームは、協力者3人に温度や明るさが一定の室内で36時間過ごしてもらい、2時間おきに採血した。血中に含まれるアミノ酸や脂質などの代謝産物を測定分析して、24時間の周期で増減する58種類の物質を特定した。さらにこれらの物質が、1日の任意の時刻に採取した血液から正しく「体内時刻」を推定できるかどうか検証するため、強制的に外環境と体内時計をずらした6人の血中物質を測定したところ、メラトニンやコルチゾールの量を測定する従来法と、ほとんど同じ結果が得られた。
研究チームは、特定した物質を指標に体内時刻を推定する「分子時刻表」を作成した。これにより、血液の連続計測を行わなくても、1回の採血(1ml以下)だけで簡単に、ヒトの体内時刻を正しく知ることができるようになった。時差ぼけや一部の睡眠障害のような体内時計の異常(リズム障害)の診断治療のほか、最適な時刻に服薬する「時間治療」などにも活用できるものと期待される。研究成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』(オンライン版)に27日掲載された。