ニュース

東電事故調・最終報告書の要旨〈その5〉

2012.07.05

第13章 放射線管理の対応評価

《地震発生後の放射線管理》

地震発生後の津波や炉心損傷事故、建屋の爆発により、従来の管理区域という枠組みで他の場所と区別することが意味をなさないものとなった。
管理区域の出入管理箇所に設けていた「警報付き個人線量計(Alarm Pocket Dosimeter:APD)」及び貸出装置(充電器)については、津波による浸水などにより機能が喪失し、さらには電源喪失により、従前より実施されて いた管理区域入退域管理、被ばく線量集計などの各種の管理システムの機能も喪失した。
電源がなくなったことから排気筒放射線モニタに加えて、モニタリングポスト(MP)が機能せず、モニタリングカーを出動して、発電所敷地境界 付近などの環境測定(空間線量率、気象データなど)を開始し、3月12日には柏崎刈羽からの応援のモニタリングカーを含め2台のモニタリングカーで測定を 行った。
「免震重要棟」に設置された発電所対策本部において、発電所に係わるすべての放射線管理業務を一元的に行うこととした。
3月12日未明には敷地内の放射線レベルが高くなったため、地震発生前であれば、管理区域内に限り携行していたAPDや、汚染レベルの状況などに応じて装着していた保護・保護具類についても、免震重要棟から出て作業を行う場合には携行・装着することとした。
大規模な放射性物質の放出と建屋の爆発は、敷地全体の放射性物質による汚染だけでなく、やがて免震重要棟内の汚染をも招く結果となった。敷地 全体の汚染は、バックグラウンドレベルの上昇を招き、敷地内に設置していたWBC(ホールボディカウンタ)による内部被ばくを評価することを困難にした。
事故対応を行うにあたり、免震重要棟以外の拠点も必要となり、福島第一原子力発電所の南約20kmの地点にあるサッカー練習施設「Jヴィレッ ジ」をその拠点として活用することとし、緊急作業に携わる作業員への教育や防護装備の着用や免震重要棟を経由しないで福島第一原子力発電所の構内で作業を 行う場合の線量計の貸出を3月17日からJヴィレッジで開始した。
Jヴィレッジは復旧作業が本格化するにつれ、多くの作業員を受け入れることになり、免震重要棟内では活動するためのスペースが限られているなかで、新たに発電所構内で作業に従事する者を受け入れるために必要な手続きなどを行う拠点として有効に機能した。
緊急作業に従事した作業員の内部被ばくの評価に用いるWBCについては、日本原子力研究開発機構(JAEA)から車載型WBCを借用し、小名浜コールセンターなどで測定を行うなどの対応を行った。

第14章 事故対応に関する設備(ハード)面の課題抽出

《炉心損傷事象に対する課題のまとめ》

炉心・燃料の損傷へ事故を進展させていく物理的な駆動力は燃料の崩壊熱であり、これは停止後の時間とともに減少するものの、停止後も発生し続 ける。従って、事象進展を停止するためには、崩壊熱に応じた注水・冷却手段を維持・復旧する以外に対策はない。一旦炉心損傷が生じると影響の広がりは速 く、また、予想できない事態を生じることとなり、放射性物質・水素ガスの拡散・滞留が復旧作業自体を困難にしていくため、第一義的に炉心損傷に至らないよ うにすることが重要である。
対応のための環境条件が悪い場合であっても、炉心の注水・冷却が切れることなく確実に実行できるようにしなければならない。すなわち、以下が達成すべき事項である。
速やかに高圧注水設備による注水手段を確保すること
高圧注水機能を喪失する前に減圧手段を確保すること
減圧段階では、安定した低圧の注水手段を確保できていること
確実な格納容器ベント手段(熱の大気放出による除熱)を確保すること
海水による冷却機能の復旧手段を確保すること
以上の操作及び状態監視に必要な計測ができる手段を確保すること

第15章 プラント爆発評価

爆発の原因は原子炉内の冷却水が失われ、燃料が露出したことによって発生した水素によるものが主体であると考えられる。

《事故想定に対する甘さ》

我々原子力関係者全体が、安全確保のベースとなる想定事象を大幅に上回る事象を想定できなかった、また、原子力災害に対する我々の備えの想定も甘く、対応においては現場実態を想像できず実戦的な考えが十分でなかったと言わざるを得ない。* 下線は報告書のまま。以下、同様
《事故対応態勢》

今回の事故では、オフサイトセンターが機能せず、使用できる通信設備も限定的であったために、全ての情報は基本的に原子力発電所と本店から発信される情報となった。
このため、官邸を中心として原子力安全・保安院などが当社本店に拠点を構えるなど、通常の事故対応や訓練した態勢と異なり、直接的に政府や国が発電所支援に加わっている。
したがって、事故対応態勢の評価においては、政府や国の関与も含めた評価は避けられない。実際、政府、国、当社の対応において、様々な面で不十分な結果を招いたと考える。
政府・国、自治体、事業者の役割分担
災害に備えて組織された官邸の危機管理センター、原子力安全・保安院の緊急時対応センター(ERC)、オフサイトセンターなどとの有機的な連携が図られることはなかった。
これらの組織にはそれまでの訓練や手順に従って当社の情報が流されており、国のTV会議システムと当社TV会議システムを連携するなど、工夫することで訓練された組織やより多くの人員が効率的に動くことができた可能性が大きかったものと考える。
官邸のTV会議システムは使用されていなかったとされているが、それが事実でシステムが活用されていれば、当社は原子力安全・保安院へ要員も派遣して情報を提供しており、より早い段階で官邸の政府首脳は情報を入手でき、より的確な対応ができたものと考える。
12日未明以降は、運転操作に関する指示など発電所から見て、現場実態からかけ離れた具体的な要求が官邸の政府首脳等から直 接・間接になされるようになってきた。このような事態に至ってしまったことは、指揮命令系統において現地対応に当たる発電所の所長を板挟みにするばかりで 事故収束の結果を改善するものではなかった。
具体的な事例としては、1号機の海水注入中止の事例が挙げられる。実際には海水注入を継続していながら、表向きは「海水注入 を中断した」と偽って報告せざるを得ない立場に所長を追い込むなど、緊急事態対応の中で無用の混乱を助長させた。そのような事態に至ってしまったことは、 今回の事故対応における大きな課題であり、当社を含めて関係者は大いに反省すべきである。
これ以外にも、5章で述べたように菅総理自身や総理の知人から発せられた発電所への直接的な提案・質問や、12章で述べた低濃度汚染水の海洋放出に対する判断の遅れなどが、現場から乖離した判断事例として挙げられる。
一般的な事例としては、国の命令文書が挙げられる。3月12日と15日に合計4回の命令文書が国から出されている。文書の内 容は、1号機と2号機の格納容器ベント操作や1号機の原子炉への海水注入などであり、国から早期実施を促す命令文書が出された。ベントの実施などは、当社 から国へ申し入れたものであり、発電所では既にベントなどのための必死の努力が続けられていた。
督促の命令文書を出すだけでは問題解決は図れず、あのような緊急事態においては、様々な問題に対して具体的に対処方法を考え、動くことのできる組織が必要であり、命令文書は必要とされていない。
政府・国、自治体、事業者などが協力して、真に危機に対応できる組織を確立するためには、それぞれが災害時に、より実戦的な活動のできる組織になるべきである。
今回の事故対応に関して、発電所から見て指揮命令系統に混乱が生じたこと、結果として現場の実態を把握していない場所で、把握していない者が判断するような実戦的でない対応態勢になったことは問題である。このような事態を招いたのは、当社であり、政府であり、国である。
事故対応において、どのような事に対して、誰(政府・国、自治体、事業者)が責任を持ち、どのような実効ある対応を実施するのか、明確にしておく必要がある。
初動対応、専念できる態勢
本店の事故対応時の活動を見ると、災害発生当初は会長、社長が出張で不在であり、原子力・立地本部長は発電所支援や原子力災 害時のオフサイトセンター対応のために福島へ移動し、原子力・立地本部副本部長は経済産業省などへの説明やプレス対応で不在となる時間が生じている。不在 時の対応ルールに従い対応はなされているものの、経営トップにおいては常に緊急時対応を念頭においた行動が必要と考える。
特に、原子力災害においては原子力部門のトップである原子力・立地本部長、副本部長のどちらかが事故対応時に在席し、発電所支援していくことが必要と考える。
この他、本店対策本部長が外部との電話対応に追われたり、技術系社員がプレス対応などで、時間単位であるが、事故対応にあたれない状況が生じるなど、発電所の事故対応などに専念できない状況が生じた。
長期対応態勢
本来であれば長期化が見込まれた段階で対応した組織に移行すべきところであるが、予断を許さない状況の中で当社は通常の事故対応と同様に全員で対処し、要員ローテーションについては、要員の増強などに応じて、各班などの自主的な判断で行われていた。
放射線に対処できる態勢
今回の事故では、通常は非管理区域である屋外さえも管理区域と同様に、放射線や放射性物質の汚染に配慮する必要が生じたため、誰しもが、放射線に対処した行動をする必要が生じたとともに、通常の管理区域以上の状態が屋外まで拡大したため、放射線管理員が不足した。
《情報伝達・情報共有》

今回、プラント監視機能を喪失し、通信機能も低下した。このため、プラント情報を伝送する緊急時対応情報表示システム(SPDS)が問題なく作動していたとしても、得られた情報には限りがある。
このような通信設備の問題に加え、情報伝達上の問題などから、発電所・本店対策本部においてはプラントの状態を正しく認識できなかった。例えば、福島第一1号機の非常用復水器に対する対応状況などに関して、中央制御室と発電所対策本部などの間で正しく認識できるような伝達がなされなかった。また、3号機において、高圧注水系の停止などについて、全体が情報共有するには1時間程度を要した。
《所掌未確定事項への対応》

消防車について、火災への消火活動に対しては役割・責任は明確になっていたが、原子炉注水の役割分担は決められていない。今後も役割・責任が不明確な対応が必要になる場合もあり得ると考える。そのような場合に対してどのように備えるのか、検討する必要がある。
《情報公開》

社長による記者会見は3月13日から4月13日までの間、役員による記者会見は3月15日から20日の間行われなかった。社会の皆さまへ多大なご迷惑とご心配をお掛けしている企業のトップとして、記者会見などを通じたお詫びやご説明が不十分であった。
原子力災害時にどのような情報をより迅速に伝えていくのかなどの広報について、具体的な定めがなかった。
周辺住民の皆さまや広く国民の皆さまの安全に関わる、特に迅速にお伝えすべき情報について、その内容や評価を十分に把握できていなかったこと、広報内容について国との事前調整が必要となったことなどから、情報公開に時間を要した。
オフサイトセンターによる一元的な広報が機能せず、政府、原子力安全・保安院、当社の役割分担が明確でないままに、各々が記者会見を行った。その結果、三者が同様の情報を発信することとなった事に加え、会見内容に若干の齟齬(そご)が生じる場合もあった。
《資機材輸送》

地震による道路被害や通行止め、通信環境の悪化に加え、放射性物質による屋外汚染とそれに伴う被ばくの問題などが資機材輸送の阻害要因となった。
地域事情に精通していない運転手、放射線に関する知識のない、または放射線に関する装備のない運転手の方々にとっては対応が難しく、当初予定 していた場所、人や組織まで届けることができない事態が生じ、通信環境の悪化も重なり、予定外の場所に、直接的な授受行為なしに、置かれるような事例が見 られた。
放射性物質の放出に伴い、避難指示区域が設定されたため、急遽、区域境界近くに物流拠点を構築するなど、今回の事故対応事例を教訓に、事前に資機材の輸送について段取りを決めておく必要がある。また、当社(事業者)だけでは対応能力に限界がある。
《放射線管理》

放射線被ばく管理、出入管理
法令に定める女性の線量限度超過や内部被ばくの評価に時間を要したことも関連するが、緊急時の線量限度超過事例が発生した。
津波で警報付き個人線量計(APD)が使用できず、電源喪失でAPDの貸し出しシステムが機能を喪失したため線量集計などに労力を要した。さらには、出入管理拠点の整備にも労力を要した。放射線に関する知識を有しない部門が放射線管理員のサポートを受けつつ、区域・設備の確保など、拠点の構築を行うこととなった。これらの諸問題に対して、対処方法を検討しておく必要がある。

スクリーニングレベルの見直し方法
オフサイトセンターの緊急被ばく医療派遣チームの専門家による助言を得ることにより、除染のための基準(スクリーニングレベル)の見直しを実施した。
今後、同様な環境下で発電所が孤立した場合、ある一定の条件の下でスクリーニングレベルの見直しができるよう、あらかじめ取り決めておくことが事故対応には必要と考える。法律に係わる問題であり、国と事前の調整を行う必要がある。
《機器の状態・動作の把握》

各々の電源喪失のタイミングによって弁の開閉状態が異なること、加えて弁などの状態を表示するランプや計器なども電源を喪失していたことから、津波襲来時に当該弁の開閉状態を正確に認識することは困難であった。

第16章 事故原因とその対策

『今回の事故原因となった津波事象を含む外的事象に対して、事象の規模を想定し、徹底した対応をすることで事故の発生を未然に防止する ことを基本とするが、さらに、事故収束に用いる発電所の設備がほぼ全て機能を喪失するという事態までを前提とした事故収束の対応力を検討すること』が安全思想面からの対策として必要不可欠と考える。
今般の事例から得られた教訓や課題は、当社のみならず原子力発電所を有する他の事業者にも広く共有されるべき貴重な知見である。実戦的な対策を講じることを意図して、炉心損傷防止を図るための設備対応方針と設備面での具体的対策、運用面での具体的対策について述べる。li>
《炉心損傷防止のための設備対応方針》

〈対応方針1〉事故の直接原因である津波に対して、津波そのものに対する対策のほか、今回の事故への対応操作やプラントの事象進展からの課題を踏まえた原子炉注水や冷却のための重要機器に対する徹底した津波対策を施すこと。
〈対応方針2〉設備の損傷が今回の事故のような(「長時間におよぶ全交流電源と直流電源の同時喪失」や「長時間におよぶ非常用海水系の除熱機 能の喪失」による)多重の機器故障や機能喪失に至ることを前提に、炉心損傷を未然に防止する応用性・機動性を高めた柔軟な機能確保の対策を講じること。
〈対応方針3〉更なる対策として、炉心損傷防止を第一とするものの、なおその上で炉心が損傷した場合に生じる影響を緩和する措置を講じていくこと。
《設備(ハード)面での具体的対策》

徹底した建屋への浸水対策:〈方針1〉防潮堤を設置する。外部からの浸水を防ぐために建屋外壁の空調取り入れ口などの開口部に防潮板、膨張壁を設置する。扉の水密化を図り、配管・ケーブルなどの壁貫通部の止水処理をする。
高圧注水設備:〈方針1〉機器の浸水対策〈方針2〉人力による蒸気駆動高圧注水設備の強制起動。ほう酸水注入系(または制御棒駆動水圧系)の系統をできるだけ早期に起動させる手段を講じる。
減圧装置:電源喪失により直流電源が不足し、主蒸気逃がし安全弁の開操作が困難だっだ。〈方針1〉バッテリー室、主母線盤などの設置場所の止 水(または配置見直し)による直流電源の確保。〈方針2〉補充用のバッテリーをプラントから離れた安全な場所で充電、保管し、必要な時には緊急で搬送し、 電気を供給できるように配備しておく。
低圧注水設備:〈方針1〉消火系ポンプに対しては設置箇所の止水、ディーゼル駆動消火ポンプには燃料確保(燃料の配送方法含む)、モータ駆動 の消火ポンプには電源車などによる電源の確保、制御用バッテリー設置場所の止水。〈方針2〉ディーゼル駆動消火ポンプの制御用バッテリーの能力低下に備え て、別の安全な場所での予備バッテリーの充電と保管を行い、いつでも搬送できるよう事前に検討・準備しておく。低圧注水設備がすべて使用できない場合は、 消防車による原子炉注水を基本とする。消防車を利用して、事前に海から海水を汲み上げることが可能であることを確認し、その手順を確立しておく。
除熱・冷却設備:(1)格納容器ベント(圧力抑制室ベント):〈方針1〉作動用の交流電源確保と作動用の空気の確保を第一の対策とする。〈方 針2〉電源車を配備し、空気作動弁用の電磁弁に対する可搬式発電機を安全な場所に備え、緊急時には即座に搬入・利用できるような方法を確立しておく。電動 弁に加えて空気作動弁も手動で操作することができる構造に設計変更する。(2) 停止時冷却モード(残留熱除去系)による除熱:〈方針1〉残留熱除去系ポンプの電源系を津波対策により確保し、交換用の予備モータを設置する。〈方針2〉 電源喪失に備えて、非常用ディーゼル発電機(D/G)の多様化として、相応の電源を建屋外の高台に確保する。電源や冷却設備を一体で移動式とした可動式熱 交換設備(ポンプ、熱交換器一式)の配備を検討する。(3) 使用済燃料プールの除熱:〈方針1〉燃料プール冷却浄化系(FPC)は原子炉建屋の中に設置されており津波に対して基本的には強いが、横型ポンプであるこ とから、ポンプ室と電源系の津波対策(止水)を基本とする。プール内に深部の水位及び温度が計測可能な装置を設置する。〈方針2〉使用済燃料プール内の燃 料損傷防止対応には時間的に余裕がある。注水機能の後備えとして消防車の配備並びに消火系配管の活用を検討する。
監視計器の電源確保:〈方針1〉計器に必要な電源を津波から保護するための対策(バッテリー室、主母線盤などの設置場所の止水または配置見直し)が必要。〈方針2〉可搬式バッテリーの配備、長時間使用するために電源車並びに可搬式の充電器を設備する。
炉心損傷後の影響緩和策:炉心損傷を契機に生じた悪影響の防止は、炉心の損傷自体を防止することが第一であるが、深層防護の観点から、炉心損 傷が生じた場合における更なる対策を講じておくことが肝要である。(1) 水素滞留の防止:〈方針3〉必要な場合には、原子炉建屋屋上へ穴を開ける措置(トップベント)や原子炉建屋最上階のブローアウトパネルを開放する。(2) 放射性物質の放出抑制:福島第一1、3号機では炉心損傷が発生した中で、「ウェットウェル(圧力抑制室)ベント」により、放射性物質を水フィルタを介して 放出することで、放射性物質放出の低減を図った。〈方針3〉対応方針2においてベント実施の確実性を向上する対策を講じていることは、炉心損傷後において も効果を持つ。格納容器を冷却するため、消防車等による原子炉への注水手段に加え、格納容器への注水が可能となる手順を準備する。
《運用(ソフト)面での対策》

「具体的な実施手順の策定」「要員・体制的な裏づけ」「技能や知識の付与・訓練」といったソフト的な対策を整備する必要がある。これに加えて、今般の事故対応において課題が顕在化した事項に対して、以下の運用面での対策を行う。

■ 緊急時対応態勢

緊急時対応態勢
当社事故対応態勢を内側(発電所事故収束)に向いて直接的に事故対応する態勢と、外側(広報、通報連絡、資機材調達等)に向いて対応する態勢に分け、発電所事故収束の対応に直接的に係わる要員は、事故収束対応に専念する態勢を確立する必要がある。
外側に向いて対応する態勢には、国民の皆さまへの正確・迅速な情報発信や自衛隊、警察等の機関との緊密な連携が必要であることから、発電所の事故対応に従事する要員の活動を阻害せずにプラント情報などを取得する仕組み作りを検討、整備する。
海外からの支援等、数多くの情報の中から有益な情報を抽出し、有効活用するためには、寄せられた情報を仕分け、真に必要とする支援を選択する仕組みを考慮する必要がある。このためには、外側に向いて対応する態勢においても、技術系社員の適正な配置が必要と考える。

指揮命令系統
事故収束の指揮は、当然のことながら現地の状況・実態に即して行われなければならず、遠隔地から事故収束活動の具体的指揮を行うことは実戦的見地から適切ではない。
遠隔地からの実態に即さない具体的命令を行うことは、大きな危険を伴う場合があることから、事故収束活動を行う発電所対策本部、及びその支援を行う本店対策本部の位置づけに即して、所長の指揮権は尊重されなければならない。
現地の具体的な事故対応については、発電所長に指揮命令の権限があることを今一度明確に認識する必要がある。すなわち、格納容器ベン ト操作のような事例にあっては、実施の判断は発電所長が行うが、住民避難の問題があることから、実施時期については本店や国等へ報告し、調整する。
本店対策本部は発電所に対して、人的、物的支援の他、事象分析等の技術的支援を行い、また、外部関係機関との調整においても発電所長 が行う現場事故対応の具体的指揮に関して、直接的な介入などによる指揮の混乱等、発電所長が行う事故収束活動を阻害しないように支援しなければならない。

長期対応態勢の確立
対応態勢の課題の1つとして、長期間の事故対応にも耐えうる態勢の確立が挙げられる。途切れなく対応するためには、判断者も含め長期間、24時間対応できるような態勢作りを事前に検討しておく必要がある。
対応態勢で担当する業務は、できる限り通常行っている業務と同種のものとし、少人数でも効率的に対応業務ができるように配慮する必要がある。
広報関係、調達関係などには、技術系社員からも適切に人員を配置し、前項で述べたように発電所を直接的に支援する組織の対応活動を阻害しない配慮をする必要がある。
発電所が複数号機、長期間の対応を余儀なくされた場合、対応要員の増強を図るため、当該発電所経験者などを中心に、本店が主導して本店や他発電所からの人的支援を実施する。

初動の対応態勢の確保
今回の災害対応初期段階において、経営トップが不在だったことを真摯に反省し、今後は常に緊急時対応を念頭においた行動をとられるよう調整を実施する。
いかなる時間に緊急事態が発生したとしても、必要な対応要員が参集できるように環境や仕組みを整備し、手配する。

指揮命令系統・原子力・立地本部長、原子力・立地本部副本部長
本店の対応態勢においては、原子力・立地本部長または原子力・立地本部副本部長が適切に発電所支援のための判断ができるよう、発電所事故収束対応に専念できる態勢とすることが望ましい。
発電所は主に対策実行拠点で市町村などの支援を行い、発電所から距離の離れた緊急時対応拠点には原子力・立地本部長が指名する者を派遣し、TV会議システムで情報の共有を図ることが現実的で実効的であると考える。
■ 情報伝達・情報共有

機器の状態把握が難しい状態の中では、不確かさも含め機器の状態やそれらをもとにした原子炉の挙動や安全確保の状況を的確かつ迅速に判断し て、事故に対応することが重要と考える。そのためには中央制御室などで得られた情報を関係者で確実に共有することが必要不可欠であり、プラント状態や系統 の状態を容易に正しく認識する備えが必要と考える。
このため伝達は、口頭や数値の羅列ではなく、簡単な系統図などを利用した情報伝達様式等を整備し、視覚的に容易に状態を把握できるようにし、情報変更の度に連絡するようにしておくことが必要である。
通信設備が十分な機能を発揮しない場合においても、事故時には機器の状態を的確に把握し、迅速に判断するとともに関係者間で共有するために、 あらかじめ主要な機器の状況や原子炉の重要なパラメータについて、緊急時対策室と中央制御室のホワイトボードなどに同一のテンプレートを準備して適時確認 する。これらの情報伝達方式については、防災訓練などを通じて習熟訓練を実施する。
事故状況に関する情報は、国の防災組織による国民保護や住民避難の判断などに必要な情報であることを踏まえ、状況が不明であることやプラント情報が得られない状態であるならばそのことも含めて伝達されることが必要である。
■ 所掌未確定事項への対応

消防車の送水を原子炉に注入するための作業については、役割分担も明確にはなっていなかった。今後も事故対応の中で役割・責任が不明確な対応 も当然必要となる。指示を出す者またはそれを補助する者が、誰に何をするのかを明確に指示することとし、訓練の中で適切に行われているか否かを確認する。
■ 情報公開

原子力災害が発生した場合においては、その状況を迅速・正確に、分かりやすく公開し、広く社会の皆さまにご説明することは、原子力発電所を運営する事業者として当然の責務である。今後、トップ自らが率先し、積極的な情報発信に努めていく。
今回起きた事故を踏まえ、発電所周辺の住民の安全に役立ち、かつ、広く国民の皆さまにお伝えすべき情報について、検討しておくことも必要であ る。何より、原子力災害において、核物質防護に関することを除き、あらゆる情報を公開することは会社としての基本姿勢であり、今後もいささかも変わるとこ ろではない。
万一原子力災害が発生した場合には、進展する事象を迅速・確実に公表すると共に、住民の安全にとって重要な情報を最優先に公表する。
プラントパラメータやモニタリングデータは、プラントの状況や発電所周辺が安全なのかどうか客観的に評価しうる基礎的なデータとなることから、ホームページなども活用して、広く公開していく。
報道対応に携わる者が情報の意味や評価を正確に理解できるよう、技術系社員の配置も含めて態勢を構築する。
ライブ会見や現地の画像・動画など多様な情報を直接かつ迅速にお伝えできるインターネットを積極的に活用していく。
避難に係わる情報については、人の安全に直接関わる問題であることから、情報の混乱がないように国、自治体、事業者間で事前の準備や調整が必要と考える。
しかし、それ以外の情報については、かかる緊急事態にもかかわらず行われたような、過度な発表内容の事前調整については取りやめ、迅速な情報公開のために情報共有程度に留めるべきだと考える。
■ 原子力災害時における安全の確保(放射線安全他)

放射線管理教育の強化
発電所に勤務する者については、担当する業務が放射線に係わらない業務であっても、万一の対応を考慮して最低限必要な放射線管理に関 する知識を教育するとともに、関連する装置(サーベイメータ、APD等)の基本的な取り扱いについて訓練をしておくことで、放射線管理における補助的な業 務が行えるようにする。

女性の作業従事に関する考え方の整備
地震発生後に当社女性社員が消防車の給油、免震重要棟での業務などにあたっており、結果として線量限度を超える事象が発生した。この 事例に鑑み、原子力災害発生時は、発電所で業務に従事する女性については、できるだけ早期に発電所から退避することを基本的な考えとして整備する。

内部被ばく評価方法及び対応手順の整備
今回の事故対応においては、多くの作業者が内部被ばくした。原子力災害発生時の内部被ばく評価方法及び対応手順について、改めて検討、整備することが必要と考える。
《国などへの提言事項》

■ オフサイトセンターのあり方

原子力災害時に当初中心的役割を予定していたオフサイトセンターが機能しなかったために、国、自治体、事業者が協力して予定していた広報の一元化については実施できなかった。
現地での初動対応等の拠点としてのオフサイトセンター本来の役割を見据えた場合、地域住民にとってどのような情報が重要であるかをよく検証 し、中央で発信すべき情報と現地で発信すべき情報を見極め、その方法を含めて有益な情報をいかに迅速かつ正確に公表することができるかを事前によく検討し ておくことが必要である。
■ 資機材調達

放射線下での輸送の他、輸送に関する情報交換、災害対応輸送時の優先手続きなどにおいて、自衛隊等の関係諸機関を含めた態勢構築、事前検討について協力をお願いしたい。
■ 緊急時線量限度、スクリーニングレベルの見直し方法

ある一定の条件の下では事業者判断で緊急線量限度、スクリーニングレベルの見直しができるよう、国と予め取り決めておくことが必要である。
■ 外的事象の基準策定

外的事象については、原子力発電所の安全性を確保するため、当社としても継続的に知見の収集、検討を進めるが、その審査基準については、透明 性・公平性等の観点から、知見の集約(収集・評価、総括)能力の高い専門研究機関である国の組織が、現実の設備設計を行う上で想定することが適切な脅威の 程度について統一した見解を明示し、それに基づき審査が行われよう対応していただきたい。
■ 津波データの利用

津波に被災する可能性のある中で対応する方々の安全を確保するとともに、できるだけ迅速な事故対応をするためには、発電所沖合の津波高さの情 報をできるだけ早期に入手し、作業に携わる人たちに連絡し、避難できる体制を整備する必要がある。このため、国が保有する海面高さ観測装置のデータを利用 させていただきたい。
■ 低線量被ばくの影響調査について

低線量被ばくの影響については現状では解明されていないため、線量増加により障害発生確率も増大し、障害の発生に「しきい値」がないと仮定しているが、国民の不安を解消するためには、これらについて国を挙げて取り組み、解明することをお願いしたい。
《一層の安全確保に向けた全社的なリスク管理の充実・強化》

今回の事故を契機とし、より一層の安全確保に向けた取り組みもあわせて検討・実施していく。具体的には、様々なステークホルダーの要請、新た なガバナンス体制の枠組みなどを踏まえ、原子力安全の確保はもちろん、その他のリスクも含め、全社的なリスク管理の充実・強化などを図る。なお、「津波に よるシビアアクシデント対策の欠如」「リスク情報提示の難しさ」など、政府事故調査委員会などからのリスク管理に関する様々な指摘事項も真摯に受け止め、 取り組んでいく。

第17章 結び

今回の事故により、発電所の周辺地域そして福島県民の皆さま、更に広く社会の皆さまに、大変なご迷惑とご心配をお掛けしておりますことを、心 よりお詫び申し上げますとともに、事故の収束に向けてご支援・ご協力を頂いている政府、関係諸機関、メーカーなどの皆さまに、感謝申し上げます。

関連記事

ページトップへ