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東電事故調・最終報告書の要旨〈その3〉

2012.07.05

第6章 地震の発電所への影響

〈地震による設備への影響評価〉

福島第一原子力発電所を襲った津波は地震発生から1時間に満たないうちに到達したため、発電所の設備が地震でどの程度の損傷を受けたのかについて、発電所所員は津波が来るまでの間は明確に確認できていない。
また、事故が炉心損傷や水素爆発にまで至り、建屋内の汚染水の滞留の問題や放射線の問題などから、原子炉建屋内の機器やタービン建屋地下階の機器の状態確認は現在も困難である。
そのため、福島第一原子力発電所について、設備の健全性に関する考察を加え、可能な範囲で損傷原因を究明し、当該地震による安全上重要な機器の機能への影響の有無についての評価を行った。

プラントパラメータによる評価
プラント情報を記録する媒体としては、運転員による記録の他、チャート、警報発生記録、過渡現象記録装置等が挙げられる。これらは、プラントの状態を示すものであり、設備の健全性を評価するための重要な情報となっている。
高圧注水設備(非常用復水器、原子炉隔離時冷却系)が、問題なく動作していると判断され、特に異常は認められない。主蒸気流量、格納容器圧力・温度、格納容器床サンプ水位のチャートから、配管の健全性についても、異常はないと考えられる。
福島第一3号機では、原子炉隔離時冷却系が停止し、高圧注水系が起動してから原子炉圧力が約7MPaから約1MPaまで低下している ため、3号機の高圧注水系の蒸気配管破断の可能性も含め確認を行った。この結果、運転員からの聞き取りにより、実際に高圧注水系(HPCI)室に入室し異 常が見られなかったことが確認され、高圧注水系の蒸気配管に異常はなかったことが確認された。3号機の原子炉圧力の低下は、タービン駆動用に原子炉から引 き込む蒸気の消費量が大きい高圧注水系(蒸気駆動)を連続運転したことにより生じたものと考えられる。

観測記録を用いた地震応答解析結果
東北地方太平洋沖地震の観測データに基づいた原子炉建屋の地震応答解析を用いて解析的検討を行い、耐震安全上重要な機器・配管系へ与えた影響を評価した。
原子炉を「止める」「冷やす」、放射性物質を「閉じ込める」に係わる安全上重要な機能を有する主要な設備の耐震性評価の計算値は、すべて評価基準値以下であることを確認したことから、これらの設備の機能に地震の影響はないと考えられる。

発電所設備の目視確認結果
確認できた範囲においては、安全上重要な機器はもとより、耐震クラスの低い機器でも地震によって機能に影響するような損傷を受けたものはほとんど認められなかった。

設備への影響評価まとめ
プラント運転状況及び観測された地震動を用いた耐震評価の解析結果から、安全上重要な機能を有する主要な設備は、地震時及び地震直後において安全機能を保持できる状態にあったものと考えられる。

第7章 津波による設備の直接被害の影響

福島第一原子力発電所の主要建屋の周囲は全域が津波の遡上により冠水した。冠水は1-4号機側のエリアで厳しく、建屋周囲の浸水深は5.5mにも及んだ。
建屋の地上の開口部や地下のトレンチやダクトに通じるケーブル、配管貫通部が、建屋内部への津波の浸水経路になったと考えられる。
津波襲来により全プラントで非常用海水系ポンプ設備の機能を喪失し、炉心の残留熱(崩壊熱)を海水によって冷却することができなくなった。
1-5号機については電源設備の機能喪失から、電動の設備(安全系、並びにその他注水、冷却設備など)はすべて使用できない状態となった。また、電動弁を中央制御室から開閉することができなくなった。
直流電源を喪失した1、2、4号機では中央制御室での計測機器がすべて機能喪失しプラントの状態監視ができなくなり、直流電源が残った3号機及び5号機も計測や状態監視がバッテリー残量の影響を受ける状況となった。
原子炉を減圧する主蒸気逃がし安全弁や格納容器のベント弁(空気作動式)の制御用電磁弁の操作ができなくなった。
中央制御室や各建屋内部及び屋外の照明の停電や通信手段の制約が生じ、対応をさらに困難にした。
屋外においては津波による瓦礫や残留水、再度の津波襲来のリスクなど作業環境は極めて厳しい状態となった。
すなわち、原子炉の熱除去ができなくなり、すべての電動機器は動力源を喪失し、中央制御室の監視機能及び操作手段を喪失し、現場との通信手段がなくなり、照明も無い状態で事故対応を始めなければならなくなった。

第8章 地震・津波到達以降の対応状況

運転中に原子炉が自動停止(自動スクラム)した場合、制御棒がすべて挿入され燃料の核分裂による熱の発生はなくなるが、燃料内の核分裂生成物 による崩壊熱は発生し続ける。このため、炉心は停止後も冷却し続けなければならず、冷却を継続できない場合は、原子炉水位が低下し炉心損傷に至るととも に、放射性物質を閉じ込めることができなくなる恐れがある。
事故対応としては、炉心の冷却を行うための原子炉への注水作業、格納容器の大規模な損傷に至らないよう格納容器の圧力を逃がすベント操作が重 要になった。特に、注水にあたっては、原子炉へ水を供給しなければならないことに注力し、淡水のみならず、海水も含めて原子炉への水の補給に努めた。
《福島第一1号機》
■ 指揮・命令系統:「格納容器ベントや海水注入をためらったのではないか」の疑問について

結果的に炉心損傷に至ったものの、発電所長、当直長がその時々のプラント状態に応じた指示を出し、本店対策本部を含め、懸命に事故収束に向けた対応をしていた。
海水注入の実施にあたっては、当社の官邸派遣者からの連絡により本店対策本部はやむを得ず中断の判断を行っている。これは、事故の応 急復旧に対する責任者である発電所対策本部長(発電所長)の判断を超えて外部の意見を優先し、現場を混乱させた事例であり、現場から離れた官邸や本店対策 本部による発電所支援、応急復旧作業に関する指揮・命令系統のあり方について検討する必要がある。
■ 中央制御室における非常用復水器への対応:「何故、すぐに復旧操作を行わなかったのか」の疑問について

中央制御室では、非常用復水器などほとんどの設備の状態表示灯が消灯した。プラント状態の把握と非常用復水器の動作状況の確認・操作や、ディーゼル駆動消火ポンプを用いた原子炉注水へ向けた対応を継続的に行っていた。
短時間で炉心損傷に至った結果を鑑みると、今回のような全電源喪失時における非常用復水器の隔離信号のインターロックのあり方など、事故直後に必要となる高圧注水設備の信頼性を向上させることが必要である。
■ 非常用復水器の運転操作の適切性:「操作ミスではないか」の疑問について(1号機)

1号機は、地震後に非常用復水器が自動起動し、非常用復水器による原子炉圧力制御を行っている最中に津波が襲来し、電源喪失によって自動隔離インターロックが作動し、その機能を喪失したと考えられ、結果として炉心の損傷に至った。
非常用復水器の運転操作については、その時点のプラント状態を踏まえた対応が行われていた。
■ 非常用復水器に対する教育・訓練:「動作状態を正しく認識できなかったのは教育・訓練の不足なのではないか」の疑問について(1号機)

教育は日々の現場巡視や定例試験、OJTなどの中で行われており、その系統・機能やインターロックを把握している。また、津波襲来までは非常用復水器を用いて原子炉圧力制御を行っており、運転員は運転操作に必要な知識は有していた。
非常用復水器の隔離弁は、制御電源(直流電源)を喪失した場合、フェールセーフ機能により全ての隔離弁が閉となるため、「非常用復水 器が停止していることを容易に気付くことができた」との指摘がある。しかし、今回の事故では中央制御室の状態表示灯が消灯しており、各隔離弁がどのような 開閉状態にあるか把握し、対応することは現実的に困難であった。
ただし、今回の1号機の非常用復水器の状況を鑑みると、交流・直流電源が喪失した場合の機器・系統の動きについて、非常用設備を中心に検討分析し、手順書や教育・訓練へ反映をすることが必要である。
■ 発電所・本店対策本部における非常用復水器の動作状況に対する認識:(「何故、正しく把握するに至らなかったか」「正しく認識できなかったことが、格納容器ベントや注水の遅れを招いたのではないか」との疑問について)

通信手段が限定され、ホットラインのみによる口頭伝達でのプラント情報の把握を余儀なくされる中で、複数号機への対応、地震による被害状況の把握や停電等の復旧対応、原災法第10条、15条該当事象発生に関する外部機関への情報提供や問い合わせ対応に追われていた。
このような中で、「原子炉水位が有効燃料頂部を上回っていた」こと、「非常用復水器から蒸気発生を確認した」ことなどの情報が得られ、「非常用復水器作動中」との情報もあり、非常用復水器が停止していたことを把握するに至らなかった。
しかしながら、早い段階から注水や格納容器ベントに向けた準備・検討を開始しており、非常用復水器の動作状況に対する状況把握が、注水や格納容器ベントの早期実現に影響を与えたとは考えられない。
ただし、中央制御室と発電所対策本部間、発電所対策本部と本店対策本部間で、非常用復水器の動作状態を共有し、正しく把握できなかっ た。今回のような事故対応の前提を大きく外れた過酷な状況下でも、中央制御室と発電所・本店対策本部間で、プラント状況をタイムリーに情報共有する手段を 予め構築しておくことが必要である。
さらに、後の調査により原子炉水位計が誤った指示を示していたことが判明したことを踏まえ、プラント状況を把握するために必要な計装系の信頼性を確保しておくことが重要であると考えられる。
■ 消防車による代替注水への対応:「自衛消防隊が、これを自らの役割・責任であると自覚していなかったのではないか」との疑問について

自らの役割・責任を超えて自衛消防隊を含め各々が協力して、消防車の確保、アクセス道路確保、瓦礫撤去などの対応を行った。
今回の事故では本設の低圧注水設備が使用できず、消防車が唯一の注水手段となったことから、消防車を注水手段と位置付けることが必要であり、それを活用するための役割を明確にするとともに訓練を実施することが必要である。
■ 格納容器ベントへの対応:「格納容器ベントをためらったのではないか」との疑問について

津波被災後、発電所対策本部発電班、復旧班と中央制御室において、事態の進展によっては、格納容器ベントが必要になるとすぐに認識し、手順の確認や格納容器ベントに必要な弁の手動開閉の可否の確認など格納容器ベントに向けた準備・検討を開始した。
11日23時50分頃にドライウェル圧力が600kPa[abs]であることが判明した際、ドライウェル圧力計の異常も考えられたが、ドライウェル圧力は既にベントが必要な圧力になっていたことから、発電所長は12日0時06分にベントの準備を進めるよう指示した。
これ以降、発電所対策本部では図面やアクシデントマネジメント操作手順書を確認しながら電源がない状態におけるベント操作手順の作成が行われていた。
また、国内で初となるベント実施にあたり、国や自治体との調整、住民避難状況の確認を行い、被ばくを可能な限り少なくするよう努めて いた。一方、中央制御室では、非常灯のみの中で具体的な手順を確認し体制を整えるなど、予めの手順がない中で、かつ、その他の作業も並行して行いながら準 備を進めていた。
12日9時04分にベント弁の操作のために現場へ向かっているが、空気作動弁の開操作が高線量下でできなかった後も、発電所対策本部では仮設空気圧縮機の手配・設置・接続などの作業を行っており、ベントの実施に向けて継続的に対応していた。
1号機では、格納容器ベント弁作動用の電源及び圧縮空気を喪失した中で、臨機の対応としてベント弁の操作を現場で行わなければならなかった。より迅速にベントラインを構成する観点から、確実にベントに必要な弁を開ける手段を事前に確立しておくことが必要である。
■ 水素爆発防止について

今回の事故では、短時間で炉心損傷に至った。実際の対応時にも、12日0時頃にはドライウェル圧力の上昇や放射線量の上昇によりプラ ントが異常な状態にあるかもしれないと疑義を持っており、また4時過ぎには放射線量の上がり方から炉心損傷の可能性が高いことを認識している。
炉心損傷に至った場合は、水素が格納容器に滞留することとなるため、格納容器ベントを早期に実施する必要があることは認識されていた。しかし、本店対策本部も発電所対策本部も、格納容器から原子炉建屋へ水素が漏えいするという認識には至らなかった。
今回の事故では、炉心損傷に伴い発生する水素が格納容器内で完全には保持されず、原子炉建屋に漏えいし、原子炉建屋の爆発の原因と なったと推定される。したがって、この爆発が後の復旧作業に大きく支障を与えたことも踏まえれば、原子炉建屋へ水素が漏えいしたとしても、爆発を未然に防 止するための方策を講じることが重要であると考えられる。
《福島第一2号機》
■指揮・命令系統:「格納容器ベントや海水注入をためらったのではないか」との疑問について

発電所対策本部では、発電所長が原災法第10条、15条発生の通報連絡を行うとともに、1号機、3号機の対応を踏まえて、原子炉隔離時冷却系運転中に格納容器ベントや注水の指示を行い、これらの準備を完了していた。
中央制御室では、仮設電源で復旧された監視計器による監視や代替注水ラインの確保、原子炉隔離時冷却系の水源切替などを行っており、動かすことができる設備、確認できる計器がほとんどなく、現場との通信手段もない作業条件の中で事故収束に向けた対応操作を行った。
結果的に炉心損傷に至ったものの、発電所長、当直長がその時々のプラント状態に応じた指示を出し、本店対策本部を含め、事故収束に向けた対応をしていたものと考えられる。
なお、格納容器ベント実施に向けた対応を行っている最中に、その対応方法について官邸から発電所長に直接連絡がされており、現場実態を踏まえた対応指示と意思決定という原則に鑑みると、現場の情報が限定される中での本店や官邸などからの指示の方法には、検討の余地がある。
■ 原子炉隔離時冷却系の運転中における注水切り替の可能性:「何故、消防車による注水に切り替えなかったのか」との疑問について

1号機、3号機において電源を喪失した中で注水手段を失い、また2回の爆発(1号機は12日15時36分、3号機は14日11時01 分)が発生するなどの厳しい状況の中で事故収束に向けた対応が続けられており、その時点で2号機の消防車による注水への切り替操作を行うことは、現実的に は難しかったと考えられる。
むしろ、原子炉隔離時冷却系が長期にわたって運転した結果として、その間、より状況の厳しい1号機及び3号機の対応に、要員と逆洗弁ピット内の限られた海水を含む資機材を振り向けることが可能となっていた。
その当時は、原子炉隔離時冷却系によって注水がなされ、原子炉水位も確保されていた。臨機の対応として準備した仮設電源による原子炉の減圧、消防車による注水の信頼性と供給力を考えると、積極的に切り替を行う理由は見あたらない。
■ 原子炉隔離時冷却系の機能喪失後の注水切り替:「何故、原子炉隔離時冷却系の機能喪失後すぐに注水を開始できなかったのか」との疑問について

3号機原子炉建屋の爆発後の現場は散乱する瓦礫の影響で放射線量が高く、再爆発の恐怖の中ですぐには作業を再開できる状況ではなかっ た。1号機に続き2度目の爆発直後という作業環境的にも精神的にも厳しい状況の中で、爆発で生じた高線量の瓦礫の撤去や、損傷した消防車及びホースの取替 等の対応を進めたが、結果として炉心損傷を防ぐことができなかった。
全電源が喪失した場合においても、速やかに減圧、低圧注水へ移行できる電源、ボンベなどの圧縮空気(窒素)などの資機材を予め準備しておくとともに、それらを活用するための訓練を行っておくことが必要である。
《福島第一3号機》
■ 指揮・命令系統:「格納容器ベントや海水注入をためらったのではないか」との疑問について

発電所で海水注入の準備をしていたが、当社の官邸派遣者から極力淡水を注水することを検討するよう発電所長に連絡があり、準備が完了しつつあった海水注入ラインを淡水注入に変更した。
現場実態を踏まえた対応指示と意志決定という原則に鑑みると、現場の情報が限定される中での本店や官邸などからの指示の方法には、検討の余地がある。
■ 高圧注水系の運転(切り替)操作:「高圧注水系の停止操作は手順書違反ではないか」との疑問について

3号機は、ディーゼル駆動消火ポンプを起動して低圧系の注水準備を整えていたが、高圧注水系の停止後に低圧系の注水への切り替えが直ちに成功せず、結果として炉心の損傷に至った。
高圧注水系のタービン回転数が低下し、操作手順書に記載のある運転範囲を下回る低速度となり、いつ停止するかわからない状況が続いて いた。そのような中、原子炉圧力が低下傾向を示すという厳しい運転状態に高圧注水系が陥り、本来なら停止(隔離)する圧力となったにもかかわらず、停止し ない状況となった。
また、高圧注水系の吐出圧力が原子炉圧力と同程度になり、原子炉へ注水がされていない状態となった。以上より、高圧注水系の早期停止が必要な状況となったことから、手動停止した。
その時点における、プラント状態を踏まえた対応が行われていたと考えられる。
■ 高圧注水系停止後の対応操作:「高圧注水系停止後、もっと早く原子炉注水を行うことができたのではないか」との疑問について

原子炉隔離時冷却系及び高圧注水系による高圧系の注水は13日2時42分の高圧注水系の手動停止まで継続した。
想定より長く運転ができたのは、それまでの運転員によるきめ細やかなバッテリーの節約措置によるもので、この結果として、その間、より状況の厳しい1号機の対応に要員と資機材を振り向けることが可能となった。
全電源が喪失した場合においても、速やかに減圧、低圧注水へ移行できる電源、ボンベなどの圧縮空気(窒素)などの資機材を予め準備しておくとともに、それらを活用するための訓練を行っておくことが必要である。
■ 高圧注水系の運転中における注水切り替の可能性:「何故、高圧注水系運転中に低圧注水へ切り替えなかったのか」との疑問について

中央制御室と発電所対策本部は、ほう酸水注入系の復旧、高圧注水系のバッテリーの充電を可能とする電源復旧、また消防車の手配の見通しが明確でない中、高圧注水系による原子炉への注水の後はディーゼル駆動消火ポンプによる注水を考えていた。
注水設備として設置されている高圧注水系の方が原子炉への注水の信頼性が高いと考え、できるだけ長期間高圧注水系により注水することを考えていた。
高圧注水系が起動(12日12時35分)して約8時間たった20時36分に原子炉水位計の電源が喪失し、原子炉水位の監視ができなく なっている。原子炉水位の確認ができない中で、主蒸気逃がし安全弁による早期の減圧とディーゼル駆動消火ポンプによる低圧注水への移行は難しかったものと 考えられる。
■ 高圧注水系停止に関する情報共有:「高圧注水系停止に関する情報共有の後れが、その後の対応に影響を与えたのではないか」「高圧注水系の停止において、発電所対策本部の指示を仰ぐべきではなかったか」との疑問について

高圧注水系の後にディーゼル駆動消火ポンプを使用して原子炉に注水することについては、中央制御室及び発電所対策本部全体の共通の認識となっていた。
ディーゼル駆動消火ポンプによる注水ラインが構成され、主蒸気逃がし安全弁の状態表示灯が点灯し、中央制御室で運転操作が可能な状況であったことから、低圧系の注水への切り替操作前に発電所対策本部へ指示を仰ぐ必要はなかったと考えられる。
しかしながら、主蒸気逃がし安全弁による減圧操作が成功しなかったという一連の情報は発電所対策本部発電班と共有されていたものの、発電所対策本部全体で認識されるまでに1時間程度の時間を要してしまった。
その間にも、主蒸気逃がし安全弁の開操作への試み、高圧系による注水の試み、ならびに電源復旧等が進められ、原子炉の減圧を開始した際には消防車による注水の準備が完了している。その後の対応操作に影響を与えたとは考えられない。
しかしながら、各段階で共通認識をもつことが重要であったと考えられ、中央制御室と発電所対策本部において、プラント状況をタイムリーに情報を共有する手段を構築しておくことが必要であった。
■ 水素爆発の回避の可能性について

3号機は14日11時01分に原子炉建屋の爆発が生じているが、その原因は炉心損傷に伴い発生した水素が格納容器内で完全には保持されず、原子炉建屋に漏えいしていたことによる。
原子炉建屋へ水素が漏えいしたとしても、爆発を未然に防止するための方策を講じることが重要である。
《福島第一4号機》

3月11日14時46分に地震に襲われた時点で、4号機は定期検査中であり、シュラウド取替工事中のため原子炉内から全燃料を使用済燃料プールに取り出され、使用済燃料プールには燃料集合体1,535体が貯蔵されていた。
15日6時14分頃、大きな衝撃音と振動が発生し、その後、原子炉建屋5階屋根付近に損傷を確認した。
使用済燃料プールの注水・冷却の対応状況については「9章 使用済燃料プール冷却の対応」に、原子炉建屋上部の爆発に関する考察については「11章 水素爆発の原因」に記す。
《福島第一5号機》

地震発生時は定期検査中であったため、全交流電源喪失後も事象の進展は緩やかであったが、1-4号機側の事故対応に多くの要員が必要であったこともあり、5、6号機側の対応にあたっては、適切なタイミングでの判断及び確実な対応実施が必要な状況であった。
そのような中で発電所対策本部と運転員は連携を密にしながら、発災後早くからプラント状態に基づく対応計画策定と実施を迅速に行い、さらに残留熱除去系の機能復旧に向けては本店やプラントメーカー等との協力体制のもと、対応に取り組むことができた。
一連の対応においては、日頃の教育・訓練及び業務の積み重ねによる経験が生かされ、これまでに整備してきたアクシデントマネジメント策も有効に機能させることができた。
《福島第一6号機》

6号機は、非常用ディーゼル発電機(D/G)1基を確保でき、事故対応に必要な監視計器の確認が可能であったこと、また、早期に復水 補給水系による注水及び残留熱除去系・残留熱除去海水系を復旧し、冷却機能を確保できたことから事象の進展が抑制された状態で冷温停止に至った。
一連の対応においては、日頃の教育・訓練及び業務の積み重ねによる経験が生かされ、これまでに整備してきたアクシデントマネジメント策を有効に機能させることができた。
《福島第二1号機》

津波の影響により全ての非常用機器冷却系ポンプが使用不能となり、原子炉除熱機能喪失に至ったものの、原子炉隔離時冷却系によって原子炉水位を維持しつつ、主蒸気逃がし安全弁で原子炉圧力の制御(減圧操作)を行うことができた。
原子炉減圧後は、原子炉への注水を原子炉隔離時冷却系から復水補給水系による代替注水にシームレスに切り替えることができた。
社員・協力企業作業員の一丸となった懸命な復旧活動により、3月14日には一部の非常用機器冷却系ポンプを使用可能な状態とした。その結果、喪失していた原子炉除熱機能を回復させ、最終的に原子炉を冷温停止とするに至った。
以上の対応においては、地震発生後も外部電源設備1回線からの受電が継続できたこと、これにより一部を除いた機器の使用、計器(パラ メータ)の監視が可能であったこと、一部のエリアを除いて通信手段(ページング、PHS)が使用可能であったこと、などが大きく影響している。
発電所内の指揮命令系統や原子力防災組織内の役割・権限については、当初の設計どおりに機能したことが、プラント側の的確な対応操作と迅速な復旧活動による事態の収束に大きく寄与した。
《福島第二2号機》

津波の影響により、一部の非常用機器冷却系ポンプ1が起動できない状態(一部モータ及び電源被水により使用不能のため)となったことから、全ての非常用炉心冷却系ポンプが起動不可能な状態となった。このため、原子炉から残留熱を除去する機能が喪失した。
福島第二1号機と基本的に同じ進め方で冷温停止に成功した。これまでに整備してきたアクシデントマネジメント策を有効に機能させることができたものと考えられる。
《福島第二3号機》

原子炉からの除熱機能を有する残留熱除去系が1系統使用可能であったことから、福島第二1、2、4号機のような大がかりな復旧活動をすることなく、事故時運転操作手順書[徴候ベース](EOP)で定める手順に従って原子炉を冷温停止とすることができた。
《福島第二4号機》

津波の影響により、一部の非常用機器冷却系ポンプが起動できない状態(一部モータ及び電源被水により使用不能のため)となったことから、一部の非常用炉心冷却系ポンプが起動不可能な状態となった。 このため、原子炉から残留熱を除去する機能が喪失した。
福島第二1、2号機と基本的に同じ進め方で冷温停止に成功した。これまでに整備してきたアクシデントマネジメント策を有効に機能させることができたものと考えられる。

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