メタンを分解する微生物酵素の立体構造を初めて解明し、メタンをつくり出す酵素に構造が似た酵素がメタンを分解していることを、嶋盛吾・マックスプランク陸生微生物学研究所生化学グループリーダーらが明らかにした。
これまでメタンが微生物の働きでつくられることと、逆に微生物によって分解されることは分かっていた。しかし、メタンを分解する微生物は培養が難しく、分解酵素の立体構造解明も遅れていた。嶋氏らは、黒海の海底からドイツの研究チームが採取した微生物の中に、大量のメタン分解酵素があることを8年前に見つけている。
今回、多くの酵素の集合体であるこのメタン分解酵素を、集合体のまま結晶化する新しい試みの結果、首尾よく結晶を得ることに成功した。X線構造解析をしたところ、メタン生成酵素に似ているものの、メタン生成酵素には見られない構造が付け加わっていることを突き止めた。
海底には、メタンが水分子の中に閉じこめられたメタンハイドレートが大量に存在することが分かっている。将来のエネルギー源として期待される一方、もしメタンハイドレートが大気中に放出されると、地球温暖化を加速するという懸念が指摘されている。メタンガスの温室効果は、二酸化炭素(CO2)の20倍も高いためだ。
今回の成果は、大気中のメタン濃度が低く抑えられている理由の解明に役立つことに加え、自然界におけるメタンの発生量を低減する方策を考える上でも貴重な情報だ、と研究者たちは言っている。
この研究は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「光エネルギーと物質変換」(研究総括:井上 晴夫・首都大学東京戦略研究センター教授)の一環として行われた。研究全体の目的は、太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換・貯蔵・有効利用し得る高効率システムの構築を目指しており、微生物由来の酵素の機能を人工的にまねたエネルギー生産技術の開発も目標の一つに入っている。