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生物進化の鍵握る膜タンパクの立体構造解明

2010.11.29

 酸素が増えた地球環境で生存する以前に生物に不可欠だった嫌気呼吸を担う膜タンパクの構造を、理化学研究所などの研究チームが初めて突き止めた。

 酸素が無かった太古の時代の微生物は、硝酸イオンなどの窒素酸化物を使って生きるためのエネルギーを得ていた。この嫌気呼吸は、今でも土壌に存在する細菌やさまざまな病気の原因となる細菌のいくつかの中に生き残っている。一方、これら微生物の呼吸によって大気中に放出される亜酸化窒素ガス(一酸化二窒素=N2O)は地球温暖化へ与える影響が二酸化炭素(CO2)の300倍も高い上、オゾン層を破壊するガスとして心配されている。今回の成果は、生物が呼吸機能を変化させて地球環境の変化に適応するためにどのように進化してきたかの解明に加え、微生物の作り出すN2Oの排出量を押さえる手だてを考える手がかりにもなる、と研究チームは言っている。

 城 宜嗣・理化学研究所 放射光科学総合研究センター主任研究員、日野 智也・京都大学大学院医学研究科客員研究員、福森 義宏 金沢大学大学院自然科学研究科教授らは、硝酸イオンなどの窒素酸化物からエネルギーを得ている脱窒細菌を対象に、この重要な役割を担っている膜タンパクの構造に挑んだ。膜タンパクの多くは結晶化が難しいため構造解明も進んでいないが、研究チームは抗体を用いた方法で良質の結晶をつくり出すことに成功、大型放射光施設「SPring-8」によるX線結晶構造解析で構造を突き止めた。

 明らかになった脱窒細菌の膜タンパクは、酸素からエネルギーを得る酸素呼吸で重要な役割を担っている膜タンパク「チトクロム酸化酵素」と構造がよく似ていた。これは生物が嫌気呼吸から酸素呼吸へと進化して行く過程で、膜タンパクも進化したことを意味する。

 温暖化ガスとしてのN2OはCO2に比べて一般の関心は低い。しかし、化学肥料の大量使用などのため、脱窒細菌が作り出すN2Oが大気中に増加しており、温暖化への影響が心配されている。

 今回の研究成果は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業ERATO型研究「岩田ヒト膜受容体構造プロジェクト」(研究総括:岩田想 京都大学大学院医学研究科教授)の一環として得られた。

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