一部の花卉(かき)を除いて国内では商業栽培が全く行われていない遺伝子組み換え植物について、研究、利用を積極的に進める必要があるという提言を日本学術会議がまとめ公表した。
遺伝子組み換え技術の安全性の検証と野外試験地の整備、植物科学に精通し応用科学への橋渡し研究にも理解のある若手研究者の育成などを求めている。
提言によると、世界では現在、25カ国が遺伝子組み換え作物を商業栽培している。世界の遺伝子組み換え作物栽培面積の50%を占める米国は、日本の国土の3.5倍にも及ぶ農地で遺伝子組み換え作物が作られている。中国、インド、ブラジル、アルゼンチンなど中進国も多様な遺伝子組み換え植物の開発を推進しており、中国では既に遺伝子組み換えイネと遺伝子組み換えトウモロコシについては国内での栽培が承認されている。
これに対し、日本で商業栽培される遺伝子組み換え植物は、2008年に生産、販売の許可を受け、09年から販売が始まっている「青いバラ」の例があるだけ。遺伝子組み換え農作物の栽培ができない大きな理由は、安全性に対する消費者の不安が根強いためと言われている。
学校教育の現場でバイオテクノロジーは「生物II」で高校2-3年次に学習する。しかし、選択科目のため普通科の高校生の12-17%しか学ばない。一方、「家庭科」や「社会科」では遺伝子組み換え作物や生命倫理について、それぞれ必修科目として学ぶ。しかし、遺伝子組み換え技術に対する家庭科や社会科の教員の意識は、否定的な傾向が強いという内閣府の調査報告がある—など教育による影響も提言は指摘している。
遺伝子組み換え作物については、国内での商業栽培が行われていない一方で、国内で食品として商業利用可能と認定された作物には、海外で開発されたダイズ、ワタ、トウモロコシ、ナタネ、ジャガイモ、テンサイ、アルファルファの7作物116 品種がある。国内のコーンスターチ業界は、世界的に非遺伝子組み換えトウモロコシの調達が困難になり、2008年に遺伝子組み換えトウモロコシの使用に踏み切り、今では国内で流通する多くの食品に遺伝子組み換えトウモロコシを原料としたコーンスターチが使用されている。また、国内消費量のほぼすべてを輸入しているナタネ(油)や、95%を輸入しているダイズも、国内流通量の60-70%は遺伝子組み換え作物であると推定されるという実態も提言は明らかにしている。