東北大学と宇宙航空研究開発機構は、線虫を使い宇宙でなぜ筋力が低下するかの謎に挑む実験を国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」で実施する。現地時間11月16日に打ち上げられる米スペースシャトル「アトランティス」に実験機材を積み込む。
東谷篤志・東北大学大学院生命科学研究科教授らが行う実験は、RNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象が宇宙環境下でも確認できるか調べることが主目的。RNA干渉というのは、二本鎖の短いRNAを導入するとその遺伝子情報に対応するRNAが働かなくなる現象で、これを線虫で確認した2人の米国人研究者は2006年のノーベル医学生理学賞を受賞している。その後、RNAiはネズミやヒトなどの哺(ほ)乳動物に至るまで、生物に広く存在していることが分かった。人工的に遺伝子の働きを抑える技術へ発展し、さらに新たな遺伝子治療などへの応用が考えられるなど医学分野でも有望な手法となっている。
今回、用いられる細胞培養装置は微小重力培養室と、遠心力を利用して重力を地上と同じにする1G培養室を持っており、重力が線虫のRNAiにどのように影響するかが詳しく調べられる。
東谷教授らは2004年にもロシアのソユーズロケットで線虫を打ち上げ、国際宇宙ステーション(ISS)で1週間培養する実験をしており、この結果、線虫も宇宙に滞在した宇宙飛行士と同じように筋肉が衰えるという興味深い結果を得ている。今回は、この現象をさらに詳しく調べるため、宇宙で育てた線虫について、筋肉に関係する遺伝子やタンパク質の発現量も分析する。
線虫は、わずか959個の細胞からできているが、個々の細胞の素性とすべての遺伝子情報が解明されている。さらに約2万個の遺伝子のうち約4割がヒトに似ていることから、ヒトのモデル生物として重宝されている。