土壌中の炭素が地球温暖化にどのような影響を持つかを予測する手法を、日本原子力研究開発機構などの研究チームが開発した。研究者たちは1年あたり気温が0.05℃上昇した場合、今世紀末までに土壌が蓄積している炭素の12%が失われ、長期にわたり大気中の炭素放出を増やす可能性を指摘している。
日本原子力研究開発機構原子力基礎工学研究部門の小嵐淳研究員と森林総合研究所東北支所の平井敬三グループ長らが開発した手法は、土壌の有機物中に含まれる放射性炭素と安定な炭素の同位対比を調べる。宇宙線起源、核実験起源の放射性炭素が含まれる比率から、有機物がどの程度長い期間、土壌中にあったかを算出できる。
岩手県安比にある森林気象試験地のブナ林の土壌を調べた結果、林の土壌が数年から数千年にわたるさまざまな炭素貯留能力を持つ有機物の複合体であることが分かった。蓄積されている炭素の70%が、100年以上の時間をかけて形成、分解されたものであることも明らかになった。
これらの有機物が微生物によって分解され、大気中にCO2として放出されるうちの70%以上は、土壌中に滞在した期間が10年未満。これら10年未満の炭素は土壌に蓄積されている全炭素量の10%でしかない。これ以上長く蓄積されている炭素が、地球温暖化による気温上昇でどのくらい大気中に放出されるかが、大きな問題になる。
研究チームが試算した結果、1年当たり0.05℃気温が上昇した場合、今世紀末までに、約12%の土壌炭素蓄積量の減少を引き起こすことが分かった。研究者たちは、12%のうち数十年から二百年程度、土壌中に滞留している炭素が半分以上を占めており、その後も長期にわたって大気中への炭素放出量の増大に大きく寄与する可能性がある、と指摘している。
現在、有機物の形で土壌中に蓄積されている炭素は、地球全体で1兆5千億トンで、大気中にC02として存在する炭素量の約2倍、植物の中に含まれる炭素量の約3倍に達するとみられている。植物が大気中から吸収する炭素の量は年間約600トン。土壌中の微生物による有機物分解によって土壌から大気中に放出される炭素量は、年間550億トンで、この量は化石燃料の消費など人間活動によって年間、大気中に放出される炭素量の約10倍に相当するといわれている。