レビュー

パリで人類未来に関わる重要会議 合意は予断許さないCOP21

2015.11.04

内城喜貴

 京都議定書に代わる新たな地球温暖化対策の枠組みをつくる気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が11月30日から12月11日までの日程でパリで開かれる。温暖化の影響は、豪雨、それに伴う洪水、熱波などの形で既に顕在化している。こうした深刻な影響を知った今を生きる世代が後世の世代に大きなつけを残さない国際目標で合意できるか、今後の人類の未来に関わるとも言える極めて重要な会議となる。

 COP21には世界の約80以上の主要国首脳が集まり安倍晋三首相も出席予定だが、会議でどのような合意ができるか予断を許さない。危機感を抱いた開催国で議長国のフランス政府は11月8日から各国の閣僚級代表を集めて、合意に向け何とか道筋を付けたい考えで、当面この閣僚級会合の成果に注目が集まっている。

 10月下旬にドイツのボンで特別作業部会が聞かれた。この会合に向け、新たな枠組みづくりへの期待も高まっていた。京都議定書は、排出量が1?3位の中国、米国、インドが削減義務対象外だったが、今回COP21に向けて、先進国、途上国の双方から約150カ国が自国の温室効果ガス削減 目標を表明していた。インドも10月初めに削減 目標を表明し、目標を提出した国の現行排出量の総計は世界の総排出量の85%を超えた。しかし、ボンでの会議は冒頭から紛糾した。事前に用意された議長案に対し、発展途上国から、議長案は先進国寄りで自分たちの主張が反映されていない、と反発の声が相次いだ。温室効果ガスの削減の在り方や先進国から発展途上国への資金支援など重要 な論点で各国の主張の隔たりが大きいことを印象付けた。結局、特別会合はパリでの会議での合意の土台となる草案をまとめることができなかった。

 地球温暖化が人類に大きな影響を与えることが指摘され、国際的な枠組みの中で各国の取り組みが始まって既に四半世紀以上が経つ。温暖化の問題を科学的根拠に基づいて精密な報告書をまとめて世界に警告を発信してきたのが1988年に設立された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」だ。政府関係者と科学者により構成され、温暖化の予測を科学的に行う第一作業部会、影響と被害などを分析する第二作業部会、そして温室効果ガス削減策をまとめる第三作業部会がある。これまで5回にわたり膨大な量の報告書を公表してきた。その内容は国際目標の内容に大きな影響を与えることからIPCCの会合では毎回各国間で激しいやり取りが行われてきた。1990年に最初の報告書が出されて2年後の92年に気候変動枠組み条約採択につながった。

 昨年11月に公表された第5次統合報告書は「対策を強化しなければ今世紀末の平均気温は20世紀末に比べて最大4.8 度高く、海面は82センチ上昇する」「食糧の安全保障が脅かされて水害や高潮被害によって移住を強いられる人が増える」「深刻な被害を避けるために今後許される二酸化炭素の排出量は残り1兆トンしかない」「目標の実現のためには再生エネルギー導入などの方法がある」などと指摘した。そして今世紀末までには排出量をゼロにする「ゼロ炭素社会」への移行を提唱した。IPCCが最初の報告書を出したころはその内容に懐疑的な見方もあったが、今や異常気象が世界中で起き、今後確実視される深刻な影響に疑問を示す科学者はいなくなった。

 IPCCの警告を受けて、温暖化の深刻な影響を避けるために平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度未満に抑えようとする新たな国際目標ができた。「2度未満目標」と呼ばれている。2度を超えると将来、世界各地で取り返しのつかない甚大な被害が生じると予測されるからだ。しかしこの目標の実現は容易ではない。

 京都議定書に代わる新たな枠組みづくりに向けて約150カ国が各国の削減目標を表明している。先進主要国が何とか温暖化を食い止めようとそれぞれに打ち出した削減目標だ。主な先進国の削減 目標をみると、まず日本は「2030年に13年比で26%減」。欧州連合(EU)は「30年までに1990年比40%減」。米国は「25年までに05年比26?28%減」。基準年が異なり分かりにくいが削減目標は削減基準年が重要だ。かなり削減できた年を基準にすると 、削減率を上げるのはきつくなる一方、排出量が多い年を基準にすると 削減率の数字を大きくしやすくなる。日本の目標は、欧州と 同様1990年比に換算すると18% となる。この数字は現行の環境基本計画が定める「12年比で50年までに80%減」を下回る数字となってしまい、環境保護団体などは「 米国と比較しても見劣 りする」と批判している。

 このように各国それぞれの事情の中でそれぞれの手続きを経て打ち出された目標値なのだが、最近衝撃的な報告書が出された。経済協力開発機構(OECD)が10月下旬に公表した報告書によると、表明国すべての削減目標を足しても2040年ごろには「2度未満」に必要な排出上限値を上回ってしまう、という。「2度未満目標」のためには、2050年までに10年比で世界全体で40?70%削減して2100年にはゼロまたはマイナスにしなければならないのだが、各国目標はこれに及ばない、との指摘だ。経済へのマイナス影響を与 える大胆な排出削減策にはどちらかというと慎重だったOECD の指摘だけに大きなインパクトを与えた。

 温暖化現象の特徴は、温室効果ガスの排出量が増えても、削減できてもその影響、効果が現れるまでにかなりの時聞がかかることだ。つまり 削減対策に消極的だとその影響はずっと後の世代に大きなつけが回る。積極的な削減策を進めてもその効果が出るのはかなり先になる。はるか上空の二酸化炭素など温室効果ガスに国別のタグは付いていないから世界が共同歩調をとって積極的な対策を進まないと意味がなくなる。人類は既にかなりの量の温室効果ガスを排出してしまった。深刻な温暖化被害を防ぐためにはこれまでのような排出パターンは許されないという単純な理屈なのだが、先進国の多くの人々は、多くのエネルギーを使ってできるならば便利で軽快な生活を維持したい。途上国の人々は、これから発展するためにはエネルギー消費は不可欠だ、温暖化の責任は先進国だ、と考える。温暖化の影響とその対策は、人類が経験する初の試練であり、初めてとも言える難問だ。

 ローマ法王は6月に地球環境と気候変動問題に関する声明を発表した。この中で法王は、現在の先進主要国の生産、消費パターンを「持続不可能」と断じた上で「今世紀中にとてつもない気候変動により、生態系の破壊が起きて深刻な結末を招きかねない」と強い危機感を表明した。

 COP21で議論される新しい枠組みづくりは、次世代、次々世代に深刻な影響を及ぼす温暖化の進行を何とか遅らせることができる枠組みをつくることができるかどうか、最後のチャンスとも言われる。世界の主要国首脳は、パリでの会議初日に意見表明する。そこでは「低炭素社会」への転換を進める覚悟が問われる。

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