レビュー

ノーベル賞受賞者の業績

2012.10.09

 山中伸弥京都大学教授のノーベル医学生理学賞受賞は、多くの日本人が待ち焦がれ、予想通りと感じたのではないだろうか。

 国際情報企業のトムソン・ロイターは、11年前から毎年、ノーベル賞(物理学、化学、医学生理学、経済学)受賞の可能性が高い研究者名を発表している。それぞれの賞ごとに受賞が予想される研究業績が3つ挙げられ、それぞれ1-3人の有力研究者名が並ぶ。論文がほかの研究者にどれだけ引用されたか、を最重要視した予測手法だ。これまで14人(故人2人を除く)の日本人研究者の名前が挙がっていたが、実際に受賞したのは2年前に名を挙げられた今回の山中氏が最初である。

 トムソン・ロイターは、その年の受賞がどのような研究業績に与えられるかの予測法については明確にしていない。年によっては、ずばり受賞者を当てたケースもあれば、今回の山中氏のように何年か後に晴れて受賞という場合もある。

 山中氏を含め、これまで名を挙げられた人で実際にその年あるいは何年か後に受賞した研究者は27人いるから、山中氏以外の残り13人の日本人研究者も今年あるいは数年後に受賞する可能性は十分ある、ということだろう。

 トムソン・ロイターの発表がないころは、マスメディアを含めてその年のノーベル賞受賞者を予測する確たる手段は全くなかったと言ってよい。特に物理学賞に比べ、研究対象が多岐にわたる化学の場合、1981年の福井謙一氏をはじめ7人の日本人受賞者を事前に予測できた人はごく一部でしかなかったと思われる。

 論文が引用される数が多いということは、その論文の価値を認める研究者が多いことを意味する。従って研究成果の重要性を判断するのに最も信頼できるデータになる、というのが、トムソン・ロイターの考え方だ。

 山中氏が切り開いたiPS(人工多能性幹)細胞の研究分野は、最初の論文が公表されて6年にしかならないのに、再生医療や創薬の分野でiPS細胞を活用する研究が世界中で急速に進んでいる。当初からiPS細胞の医療応用を目標に掲げている山中氏自身、「人材、研究費を投入しないと外国との競争に勝てない」と危機感を募らせ、数年前から政府に訴えている。(2007年12月12日オピニオン「チームジャパンで戦わないと負けてしまう」参照)

 ノーベル賞に値する研究業績、研究者とは何か。被引用数を重視した評価手法は、一般の人間でも客観的に判断できる有力な方法として認められつつあるといえそうだ。別の言い方をすれば、その研究者の後に続く研究者の数がいかに多いかで価値が分かる、ということではないだろうか。

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