人間の皮膚細胞から、さまざまな細胞に育つ能力を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作り出すことに、山中伸弥・京都大学再生医科学研究所教授、高橋和利・同助教の研究チームが成功した。
臓器移植や失った機能の回復を図る再生医学では、さまざまな細胞に分化する能力を持つ万能細胞として、胚性幹細胞(ES細胞)を作り出す研究に多くの研究者たちの関心が向いていた。これに対し皮膚細胞から作り出せるiPS細胞は、ヒト受精卵から作るES細胞と異なり、倫理的な問題がない。患者自身の細胞から作り出せるため、実際の治療に応用した場合、拒絶反応の恐れもないという長所がある。山中教授らが昨年8月、世界で初めてマウスの細胞で作り出すことに成功して以来、ヒトのiPS細胞をつくる激しい研究開発競争が世界中で繰り広げられている。
今回、山中教授らは、マウスで成功したのと同様、ヒトの皮膚細胞から得られた線維芽細胞に4個の遺伝子を組み合わせて導入する方法でiPS細胞を作り出した。導入にはレトロウイルスベクターが使われた。このヒトiPS細胞は、神経、心筋、軟骨、脂肪細胞などさまざまな細胞に分化することが確かめられた。
将来、脊髄損傷や心不全などの患者の体細胞からiPS細胞をつくり、これを神経細胞や心筋細胞に分化させることにより、倫理的な問題や拒絶反応の心配がない細胞移植療法の実現が期待できる、と研究チームは言っている。
この研究は科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)と、医薬基盤研究所・保健医療分野における基礎研究推進事業の一環として行われた。