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地域社会機能の順応的凝集(スマートシュリンク)は可能か

掲載日:2011年9月9日

日本学術会議が「持続可能社会における国土・地域の再生戦略」という提言をまとめ、8日公表した。「人の居住活動空間の順応的凝集(スマートシュリンク)」あるいは「地域ごとに社会機能を順応的に凝集(スマートシュリンク)」という記述が目を引く。

提言の中で、日本社会の近未来図は次のように描かれている。

既に農山漁村域の過疎化・疲弊、大都市の過密・過重化は深刻になっている。特に近年、激甚化する自然災害が農山漁村の過疎化に拍車をかけている。地方都市も例外ではない。社会・経済的な求心機能が失われ、かつて中心部に発達した商業機能の疲弊が著しく、一方、郊外には、住宅団地のみならず、工業団地、大型ショッピングセンター、病院、文化施設などが分散立地し、自動車交通を前提とした都市構造が形成されている。今後、都心部でのマンション供給が続いて都心居住が進む前兆は見られるものの、人口減少が進めば、中心市街地、郊外を問わず全域で低密度な都市が現出する可能性が強い。

今後、人口は100年間で半減する。経済成長を目指して社会資本を量的に拡大する時代は終わり、都市・農山漁村ともにクオリティオブライフ(QOL)を高める、人口に見合った市街地の身の丈を想定してクオリティストックを順応的に形成・凝集し、寄り添って質の高い生活を送るための土地利用改革、いわゆるスマートシュリンクへと踏み込むべき段階にある…。

要するに便利で豊かになったように見えて、実際にはむしろ自然災害に脆弱(ぜいじゃく)で、日常的な生活がしにくく、かつ潤いに欠ける生活環境になってしまっている、ということだろう。こうした現状と見通しに立って次のような提言がなされている。

「クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の向上を重視しつつ人の居住活動空間の順応的凝集(スマートシュリンク)を目指し、国際枠組みにおける低炭素社会・循環型国土計画を推進して、日本の価値・技術のアジア圏への発信・共有を実現するための地域再生モデルを構築していくことが必要」

続いて「限界集落問題を抱える農山漁村域は、人間としての豊かさを満たす自然環境に恵まれている。人と自然の協働作業によって長年にわたり形成された地域環境を流域圏の『文化的景観』として再評価し、新しい国土・地域のマネジメントの単位として位置づけるべきだ」。

さらに2つの提言が加わる。

「行政は学と協力して、都市・農山漁村が抱える複雑かつ多様な問題に総合的に取り組むことができる専門家を育成するとともに、教育やさまざまな情報媒体・コミュニケーション手段を通じて都市と農山漁村間での人的交流を推進し、環境に対する倫理観と正しい知識の普及に努める責務がある。また、国土・地域の再生に関して日本が培ってきた知見を人材交流をも通じてアジアへ発信し、将来わが国と同様な状況が生じると考えられるアジア諸国の国土・地域問題の解決に貢献する必要がある」

「土地利用の総合管理を実現するためには、地方分権化によって、基礎自治体の地域管理力を高めることが何よりも求められる。同時に、国土管理・地域再生においては分権化と広域的ガバナンスの均衡に基づいて、土地利用における公共の利益を優先させることが重要である。以上のことから、国並びに自治体に対して、分権主義と補完性原理による広域調整を整合させた新しい枠組みの法体系・行政システムを早急に構築することを要請するものである」

提言を通して読むと日本社会、日本人のありよう、生き方に相当の変換を迫っているように見える。

1982年に「『縮み』志向の日本人」という本がベストセラーになった。著者の李御寧氏は朝鮮日報論説委員、梨花女子大教授などを経て、89年には韓国政府の初代文化相にもなった人だ。著書は、「縮む」ことが日本人、日本文化に深く根付いており、日本人の行動についても縮み志向によって説明できることが多いことを、さまざまな観点から論じていた。

この書が書かれて30年たつから日本人の思考、行動形態にも変化があって当然だろう。しかし、提言が言う順応的凝集(スマートシュリンク)が日本人に相容れない生き方ではない、と考える人も多いのではないだろうか。提言の中で同時に強調されている「アジア(圏)への発信、共有、貢献」については、簡単ではない、と考えたとしても。

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