サイエンスウィンドウ

【コラム】世界を舞台に、今後の活躍を期待―羽ばたく女性研究者賞の受賞者に聞く

2022.09.15

 科学技術振興機構(JST)と駐日ポーランド共和国大使館が、国際的に活躍が期待される若手女性研究者を応援するために創設した羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)。第1回受賞者4名に、自身が携わる研究や、その醍醐味について聞いた。研究に打ち込める環境を追い求め、自身のライフイベントと両立させながら、自らの研究を突き詰めていく、たくましい姿がそこにあった。

数学と物理の懸け橋になる研究を進める―山下真由子さん(最優秀賞)

7月にポーランドのワルシャワ大学で開催された数理科学の研究集会で自身の研究内容を発表(山下さん提供)
7月にポーランドのワルシャワ大学で開催された数理科学の研究集会で自身の研究内容を発表(山下さん提供)

 「幼い頃からパズルが大好きで数学に興味を持ち、学校の勉強の先にある数学が知りたくて数学者になる道を選びました」という山下さんは現在、数学と数理科学分野で世界を代表する研究所の一つ、京都大学数理解析研究所の助教だ。代数トポロジーという数学の一分野を理論物理学における問題を解くのに利用するなど、分野の懸け橋となるような研究を進めている。新しい発見や自分自身が深く理解できたその瞬間に面白さがあると言う。

 じっくりと研究に取り組む傍ら、今夏は、ポーランドや英国で開催された数理科学分野の研究集会に参加。自らの研究発表や他の研究者との協議を通してさらに視野を広げてきた。

 「いろんな分野に関わる数学をフットワーク軽く研究していきたい」と分野や国境を飛び越え、この先を見据えている。

山下真由子(やました まゆこ)

山下真由子(やました まゆこ)
京都大学数理解析研究所 助教
東京大学大学院数理科学研究科にて博士号(数理科学)を取得。専門は数理科学。

多様な波長の観測により宇宙の理解を目指す―木邑真理子さん(奨励賞)

(上)理化学研究所のデスクで(木邑さん提供)。(下)ブラックホールに吸い込まれるガスから生まれる光を観測するイメージ図(京都大学・小野英理さん提供)
(上)理化学研究所のデスクで(木邑さん提供)。(下)ブラックホールに吸い込まれるガスから生まれる光を観測するイメージ図(京都大学・小野英理さん提供)

 「宇宙ではさまざまな爆発現象や増光現象が起きています。その源にあるのがブラックホールと周辺のガスが集まった降着円盤です。そのガスがブラックホールに吸い込まれるときに生まれる光を観測し、研究しています」

 木邑さんは大学院生の時、ブラックホールの規則的な光の「またたき」を可視光でとらえることに初めて成功し、英科学誌「ネイチャー」に発表。それまではX線による観測が主流だったが、可視光を含めて多様な波長を用いるという独創的な手法で、より詳しい観測ができるようになった。

 「降着円盤は、あらゆる天体に存在します。この研究を今後、銀河の中心にある巨大ブラックホールの研究にも生かし、宇宙のさまざまな現象の理解につなげていきたいです」。第一子出産後、産休から復帰し、さらに研究を進める毎日だ。

木邑真理子(きむら まりこ)

木邑真理子(きむら まりこ)
理化学研究所開拓研究本部 基礎科学特別研究員
京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻博士課程修了。修了年度まで日本学術振興会特別研究員。専門は宇宙物理学。

世界の「ワンヘルス」に貢献する―塩田佳代子さん(奨励賞)

イェール大学感染症疫学学科博士課程時には、アフリカ・マラウィでフィールドワークに参加(塩田さん提供)
イェール大学感染症疫学学科博士課程時には、アフリカ・マラウィでフィールドワークに参加(塩田さん提供)

 「新型コロナウイルス感染症のワクチンを打つタイミングで、その効果がどのように異なるのか、最適なワクチン接種の間隔を研究し、製薬会社や政府に報告しています」。米国エモリー大学に所属する塩田さんは、コロナ禍に挑む最前線の現場にいる。

 人や動物の健康、環境の健全を包括的に実現する「ワンヘルス」に貢献したいという思いを胸に、アフリカ・モザンビークの大学や政府などと連携し、ニワトリ、そして水や土を介して人に感染するサルモネラ菌の感染経路をどのようにコントロールできるかといった研究にも携わっている。

 「公衆衛生にまつわる研究は、世界各国のさまざまな研究者と協力する面白さがあります。今後は人種、性別に関係なく研究ができる環境づくりにも関わっていきたいです」と、自身が米国で切りひらいてきた経験を糧に、2人の子供の育児をしながら研究を進め、大学教員の道も目指す。

塩田佳代子(しおだ かよこ)

塩田佳代子(しおだ かよこ)
エモリー大学ロリンス公衆衛生大学院疫学学科および環境衛生学科 疫学者
米国疾病予防管理センター(CDC)勤務後、イェール大学感染症疫学博士課程修了。世界保健機関(WHO) 統計コンサルタント、酪農学園大学獣医学群 特任准教授、Blue Industries株式会社 顧問も務める。専門は感染症疫学。

ゲノム進化学の面白さをさまざまな角度から発信する―齊藤真理恵さん(特別賞)

(左)ノルウェー生命科学大学のキャンパスで(齊藤さん提供)。(右)齊藤さんが製作したゲノムをモチーフにしたデザイン画
(左)ノルウェー生命科学大学のキャンパスで。(右)齊藤さんが製作したゲノムをモチーフにしたデザイン画(齊藤さん提供)

 ゲノム情報から生き物の進化の過程を研究する齊藤さんは、「予想外の結果を見つけた時はうれしい半面、同時に間違っているのではと怖さもあります。さらに検証を重ねて、その発見が正しいと確信できた時、ゲノム進化学の研究の面白さを実感します」と語る。

 研究にまい進できる環境を求め、米国に渡った後、現在はノルウェー生命科学大学でサケのゲノム構造変異から進化の過程を解き明かしている。オランダやギリシャ、韓国からの研究員らと共同研究を進める傍ら、大学院生の指導・育成にも携わる。

 いつか芸術家とゲノム解析画像を使った作品でコラボレーションできたら、とさまざまな角度からゲノム進化学の面白さを発信したいと意欲的だ。

齊藤真理恵(さいとう まりえ)

齊藤真理恵(さいとう まりえ)
ノルウェー生命科学大学生物科学部統合遺伝学センター プリンシパル・インベスティゲーター(Principal Investigator)
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻博士課程修了。ニューヨーク州立大学バッファロー校、シカゴ大学 博士研究員などを経て現職。専門はゲノム進化学。

羽ばたく女性研究者賞(マリア・スクウォドフスカ=キュリー賞)とは
国際的に活躍が期待される若手女性研究者を応援するため、JSTと駐日ポーランド共和国大使館が創設した。ポーランド出身の科学者マリー・キュリー博士は31歳でポロニウム、32歳でラジウムを発見した功績から、後に女性で初めてノーベル賞を受賞。彼女のように世界に羽ばたいてほしいと、この賞に名前を冠した。

関連記事

ページトップへ