ロシア・カムチャツカ半島付近で30日朝、巨大地震が発生し、日本の太平洋側の広い地域に津波が周期的に到達した。猛暑の中、一時200万人以上が避難。同日夜まで津波警報が続いた。日本からかなり離れた「遠地地震」で警報が発表されたのは15年ぶりだ。各地の交通やコンビニ・小売店の営業などさまざまなサービスのほか、夏休み期間中の観光や旅行客にも影響が出た。避難の仕方に問題はなかったかなどを自治体ごとに検証し、今後の地震防災に生かす必要がある。

気象庁によると、30日午前8時25分ごろ発生した地震の震源はカムチャツカ半島南東沖の深さ20.7キロで、規模はマグニチュード(M)8.7。同庁は当初、規模をM8.0と推定して同37分に太平洋側の広い地域に津波注意報を発表した。その後M8.7に修正し、同9時40分に注意報を警報に引き上げた。警報の対象は北海道から和歌山県までの太平洋側で、注意報はオホーツク海沿岸や四国、九州・沖縄にも及んだ。同庁は午後8時45分までに警報を全て解除し、注意報に切り替えた。さらに31日午後4時30分、注意報を全て解除した。この地震で北海道釧路市などでは震度2を観測した。

首都圏では鉄道ダイヤに大幅な乱れ
気象庁の発表では、30日午後には岩手県の久慈港で1.3メートルの津波を記録。北海道根室市と青森県八戸市、東京都の八丈島で80センチ、宮城県石巻市で70センチ、東京湾に面した東京都中央区の晴海でも20センチを観測した。津波は北海道、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉、東京、神奈川、静岡、愛知、三重、大阪、兵庫、和歌山、徳島、愛媛、高知、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の計22都道府県に到達した。
同庁の担当者は午前の記者会見で、沿岸部や川沿いにいる住民らに直ちに高い場所に避難するよう呼びかけた。また津波の第1波より後に高い波が来ることがあるとし、津波警報解除まで避難の継続を求めた。

各地の自治体から避難指示が出され、総務省消防庁によると、全国の自治体が出した「避難指示」の対象者は一時200万人以上に上った。広範囲にわたり、多くの人が猛暑の中で避難を余儀なくされた。政府は30日午前、首相官邸危機管理センターに官邸連絡室を設置した。石破茂首相は緊急の記者会見をし、「政府一体となって被害防止に全力で取り組むよう指示した。対応に万全を期している」と述べた。
政府によると、同日中に津波による大きな被害は出ていない。しかし、各地からの報道によると、鉄道や空の便、高速道路にも影響が出た。首都圏では夕方の通勤電車などが運休して鉄道ダイヤが大幅に乱れた。全国の自治体でお年寄りや障がい者を含む住民が順調に避難できたか、混乱はなかったか、などの実態はまだまとまっていないが、課題を整理する必要がある。
NHKなどのテレビ局は長時間特別番組を組み、各地の住民らが炎天下の高台へ避難し、夏休み期間中の多くの海水浴場も閉鎖が相次いだ、などと伝えた。また東日本大震災の東北各県の被災地にも緊張が走り、炎天下の高台などに避難する様子を伝えた。

逆断層型で、付近では過去何度も大地震
気象庁によると、津波警報の発表は2024年4月に台湾付近で発生した大地震以来で、海外の遠地で起きた地震による警報は10年2月のチリ地震以来。内閣府によると、1952年に発生したカムチャツカ半島沖地震はM9.0で、2~5時間たって北海道から本州の太平洋側に津波が到達した。東北地方の三陸海岸に最大3メートルを記録し、約1200軒の家屋が浸水する被害があった。
今回巨大地震が起きたカムチャツカ半島沖は、海側の太平洋プレートが陸側の北米プレートの下に沈み込んでいる。過去、2011年の東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖大地震と同じ海溝型地震だ。世界的にも地震活動が活発な地域として知られる。
米地質調査所(USGS)によると、この付近は太平洋プレートが北米プレートに対して西北西方向に年間80ミリというゆっくりした速度で移動している。今回の巨大地震は西北西方向に圧力がかかって跳ね返った逆断層型地震だという。
USGSは、この日の巨大地震は東北地方太平洋沖大地震以来の世界最大規模の地震で、1900年以降世界で発生した大地震の中でも上位10以内に入るとしている。この日の地震に先立ってM5.0以上の地震が50回発生し、7月20日のM7.4の地震と3回のM6.6の地震が含まれていた。

今後の海面変動に注意を
これまでカムチャツカ半島沖には「天皇海山列」と呼ばれる海底の地形があることが知られていた。東北大学災害科学国際研究所の今村文彦教授(副学長)によると、今回地震の震源から直接届く津波だけでなく、プレート境界の逆断層面からほぼ直角に出た津波が天皇海山列などで反射。反射した波が複雑に重なって異なった方向から津波が長時間にわたって押し寄せる。そしてこうした津波は浅瀬では流れが強くなるが遅くなる。そして後ろから速い波が追い越して高さが増したりする、という。
今村教授はまた「今回の地震による津波は収束していくだろうが、津波注意報が解除されても20~30センチ程度の海面変動はかなり残る」と指摘し、海で作業する人に注意を呼びかけている。また「2004年のスマトラ島沖地震や東北地方太平洋地震以降、巨大地震の活動期に入っているとみられ、あらゆる所で警戒が必要だ」と話している。

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