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新型コロナは「11波」鮮明でさらに拡大も 幼児の感染症も増加し、厚労省が注意呼び掛け

2024.08.05

内城喜貴 / 科学ジャーナリスト

 厚生労働省は2日、全国の定点医療機関から7月下旬の1週間に報告された新型コロナウイルスの新規感染者の数は1医療機関当たり14.58人で、前週比1.07倍だったと発表した。12週連続の増加で流行の「第11波」の状況が鮮明になっている。

 コロナ禍では例年、夏休み中の特にお盆明けに感染拡大する傾向を示している。同省は医療費の公費支援が終わって感染症状が出ても検査や診察を受けない「隠れ感染者」も少なくないとみて、今夏のさらなる感染拡大を警戒している。また夏風邪とも呼ばれる手足口病やヘルパンギーナなどの幼児の感染症も増加傾向だ。

 高齢者は連日の猛暑で体力を消耗しがちだ。同省や感染症の専門家は、夏休みやお盆休みの帰省などで高齢者に会う予定の人は体調管理に気を付けるよう呼び掛けている。

全国の新型コロナ感染者の推移(定点当たり報告)を示すグラフ。第11波(右端)が現れている(厚生労働省提供)
全国の新型コロナ感染者の推移(定点当たり報告)を示すグラフ。第11波(右端)が現れている(厚生労働省提供)

入院患者は7割が70代以上

 同省によると、7月22日~28日までに全国約5000の定点医療機関から合わせて7万2003人の新規感染者の報告があった。感染者数は39都道府県で前週より増加した。

 都道府県ごとの1医療機関当たりの人数では、佐賀31.38人が全国最多で、以下宮崎25.98人、熊本25.46人と、九州に集中していた。一方、少なかったのは青森の5.16人、北海道5.95人、秋田6.73人などで、北日本に偏っていた。全国の新規感染者を年代別に見ると10歳未満、50代、40代の順に多かった。

 また、全国約500の定点医療機関から報告された新規入院患者数は4579人で、前週比1.19倍だった。年代別では80歳以上が一番多く、以下70代、60代の順。70代以上が入院患者の7割以上を占めている。

 同省によると、発症原因ウイルスはオミクロン株の中でも広がりやすいとされる変異株「KP.3」が主流。KP.3は昨年から今年にかけた冬に多く検出されたオミクロン株「JN.1」から派生し、4~5月ごろに主流となった。これまでの変異株より免疫を逃れる力が強く感染しやすいとの分析結果もあるが、症状や病原性はこれまでの変異株と大きく変わらないとの見方が多い。

 厚労省はこれまでに感染症に詳しい有識者から全国の医療機関や高齢者施設などでの感染状況に関する情報を収集した。同省関係者によると、流行の第11波は明らかで、お盆休みが終わった後も流行が拡大する可能性があるという。

新型コロナ感染者の入院患者の推移(定点当たり報告)を示すグラフ(厚生労働省提供)
新型コロナ感染者の入院患者の推移(定点当たり報告)を示すグラフ(厚生労働省提供)

飲み薬は5日分で1~3万円の自己負担

 医療機関で処方される新型コロナの薬は米メルク社の「ラゲブリオ」、米ファイザー社の「パキロビッド」、塩野義製薬の「ゾコーバ」の3種類の飲み薬があるが、医療費の公費支援は3月末で終了。4月から通常の医療体制になっている。川崎市内にあるクリニックの医師によると、5日分の薬の自己負担額は「3割負担」の人の場合、ラゲブリオとパキロビッドは2万6000円~3万円程度、ゾコーバは1万5000円程度になるという。

 一方、2021年2月以降「特例臨時接種」との位置付けで全額公費負担だったワクチンについては、高齢者らを対象にした接種が今秋に始まる見込みだ。厚労省関係者によると、接種期間は10月1日以降来年3月31日までの間で各自治体が決める。対象は65歳以上の高齢者と、心臓や腎臓、呼吸器の機能障害などの基礎疾患を持つ60~64歳。高齢者に多い重症化を予防するのが目的だ。

 政府は自治体で異なるワクチン接種の自己負担額が、最大7000円になるよう補助する方針だ。対象となる高齢者ら以外の人が接種を希望する場合、1万5000円程度が原則自己負担になる。

 厚労省は、新型コロナが感染法上の5類に移行した現在も陽性と診断された場合は発症日を0日として5日間は外出を控えるよう推奨している。しかし、感染症の専門家や医師らは、診療が有料になった上に5日は実質的な行動制限がかかるために症状が出ても陽性が確定する検査や診断を受けない人も少なくない、と指摘している。

 新型コロナのウイルスは街中から消えたわけではなくまだ侮れない。後遺症も怖い。感染者の10~20%で発症するとされ、これまで200種類以上もの症状が報告されている。厚労省研究班によると、後遺症患者のうち8.5%に感染から約半年後も日常生活に深刻な影響があったとする研究結果をまとめている。

手足口病、41都府県で警報レベル

 手足や口の粘膜に発疹ができ、乳幼児を中心に流行する手足口病の感染者数も過去10年で最多のペースで増加している。手足口病の原因ウイルスはコクサッキーA群ウイルスやエンテロウイルス71型が主だ。咳やくしゃみなどによる飛まつ感染や経口、接触感染で広がる。

 国立感染症研究所によると、7月15~21日に全国約3000の定点医療機関から報告された感染者数は3万6797人。5歳以下の乳幼児が感染者の約9割を占める。1医療機関当たりでは11.72人で、全国41都府県で警報レベルとなる5人を超えた。1医療機関当たりの感染者数が多かった県は三重が27.56人、富山21.76人、静岡20.90人など。

 厚労省や同研究所によると、手足口病に似ているヘルパンギーナも昨夏に続いて増加傾向だという。ヘルパンギーナも飛まつや接触によって感染が広がり、38~40度の高熱と喉に水疱(すいほう)ができるのが特徴だ。これら2つの感染症ともにアルコール消毒が効きにくい。新型コロナの感染予防と同じく手洗いや咳エチケットが有効という。

 このほか、子どもの間で流行するA群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)や、溶連菌が劇症型になり、突発的に発症して致死率が極めて高い恐ろしい劇症型溶血性レンサ球菌感染症も今年に入ってから増えている。

手足口病に感染した患者の足にできた発疹(米疾病対策センター=CDC=提供)
手足口病に感染した患者の足にできた発疹(米疾病対策センター=CDC=提供)

高齢者は急に衰弱し持病が悪化する恐れ

 「今年は5月から暑さが続いたので体力を失っている高齢者は多い。そうした中で感染すると、高熱と喉の痛みが特徴なのでなかなか食事が取れなくなる。暑さと相まって急に衰弱して持病が悪化するケースが増える恐れがある」。循環器内科が専門の尾崎治夫・東京都医師会会長は7月16日に東京都内で開いた記者会見でこう懸念を示した。

 気象庁によると、7月は「観測史上最も暑い7月」になった。同庁は8月、9月も猛暑が続き、10月も暑さが残ると予測している。熱中症による搬送者も急増し、高齢者が占める割合が多い。

 この夏の新型コロナ感染者増について尾崎氏は「若い人は感染しても風邪ではないかと検査しない人がたくさんいる。感染力が強いと言われているKP.3株が8割を占めている。夏休みに入り、マスクをする人も減っている状況で感染者が増えると、いずれ高齢者にも(ウイルスが)入ってくる」と指摘した。

 さらに新型コロナに対する公費支援が終わっていることについて「せめて感染者が増加する夏場だけでもいいので、自己負担が3000円とか5000円で済むように国や都にはお願いしたい」と述べた。公費支援終了に伴う「検査・診療控え」や「隠れ感染者」による感染拡大を心配する医療関係者や感染症専門家は多い。

記者会見する東京都医師会の尾崎治夫会長(東京都医師会提供)
記者会見する東京都医師会の尾崎治夫会長(東京都医師会提供)

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