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史上初「金属の世界」へ 米小惑星探査機サイキ打ち上げ成功

2023.10.16

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 史上初めて金属タイプの小惑星へと向かう米探査機「サイキ」が日本時間13日深夜、米スペースX社の大型ロケットにより打ち上げに成功した。行き先は、火星と木星の間の小惑星帯にある「プシケ」。地球の中心部にも鉄などの金属があることから、探査により、惑星形成の謎の解明が進むと期待されている。

「科学の宝箱を開ける」

サイキを搭載し打ち上げられるファルコンヘビーロケット=日本時間13日深夜、米フロリダ州ケープカナベラル(NASAテレビから)

 サイキは同日午後11時19分、フロリダ州ケープカナベラルの米航空宇宙局(NASA)ケネディー宇宙センターから同社の「ファルコンヘビー」ロケットで打ち上げられた。約1時間2分後、所定の軌道に投入され打ち上げは成功した。NASAのニコラ・フォックス科学担当局長は打ち上げ後、「サイキが科学の宝箱を開けるのが楽しみだ。プシケを研究することで宇宙と、私たちのいる場所について、より深く理解したい」とした。

 サイキは米アリゾナ州立大学が主導し、NASAが全体管理や運用を担当する探査計画。機体は、太陽電池パネルを開いた幅がテニスコートほどの約25メートル、打ち上げ時の重さが約2.7トン。今後、2026年5月に火星の引力を利用して加速するなどして航行する。29年8月にプシケに到着し、2年ほどかけて探査する計画だ。日本の「はやぶさ」のような試料回収はしない。17年、効率の高い太陽系探査を低予算で実現するNASAの「ディスカバリー計画」の一環で計画が決まった。開発費は打ち上げ費用を含み、約12億米ドル。昨年8月にも打ち上げる予定だったが、機体の試験に関連する問題により延期されていた。

サイキの想像図(NASA、米カリフォルニア工科大学、米アリゾナ州立大学、米スペースシステムズ・ロラール社、ピーター・ルビン氏提供)

 プシケは、大小数百万個もの小惑星からなる小惑星帯の外縁部にあり、太陽からの距離は4億~5億キロ(地球と太陽の間は約1億5000万キロ)。太陽の周りを5年かけて公転している。ジャガイモのようないびつな形とみられ、最大直径は約280キロと、小惑星の中では極めて大きい。1852年にイタリアの天文学者により、16番目の小惑星として発見された。名前はギリシャ神話で、愛の神エロスに愛された美女の名に由来する。

「地球の中心への旅」

 プシケの最大の特徴は、金属が多いタイプの星であることだ。はやぶさが訪れた「イトカワ」が岩石質、「はやぶさ2」の「リュウグウ」が炭素質に分類されるが、これらとは大きく異なる。これまでの観測により岩石と、鉄とニッケルの混じった星で、体積の30~60%が金属。密度は1立方メートルあたり3.4~4.1トンと推定されている。

 初期の太陽系では、地球などの惑星が小さな天体と衝突を繰り返した。そのエネルギーなどで温度が上昇。岩石が溶けてマグマの海ができ、密度の大きい鉄などの金属が落ちる形で中心に集まり核ができたとされる。この過程で衝突によって外側がはぎ取られ、中心の金属がむき出しになった小天体が、プシケのような金属タイプの小惑星になったようだ。

 こうしたプシケの探査を、NASAは「地球の中心への旅」と例える。直接には観察できない地球中心部の理解につながると期待されているためだ。なおプシケはこの仕組みではなく、太陽系のどこかで金属が豊富な物質から作られた可能性もあるという。

 サイキが搭載した観測機器はカメラと、星の表面の元素を特定するガンマ線・中性子分光計、過去に磁場があったかを探るための磁力計。また通信を駆使して星の回転や質量、重力場を把握し、内部の組成や構造を探る。

プシケの想像図(NASA、米カリフォルニア工科大学、米アリゾナ州立大学提供)

 プシケもサイキも、英語のつづりは同じ「Psyche」で本来は同名だ。一方、日本語では少なからぬ天体名がラテン語に沿って読まれる一方、探査機や計画の名は当該国の言語による発音に沿うことが多い。悩ましいがサイキ、プシケと書き分ける例がみられる。

小惑星探査、日米が積極的

 小惑星探査は日米が積極的だ。主なものとしてまず2000~01年、米「ニア・シューメーカー」が小惑星「エロス」を探査し、軟着陸にも成功。10年代には米「ドーン」が小惑星「ベスタ」と準惑星「ケレス」を探査した。

 小惑星の試料の地球回収は、2010年にはやぶさが史上初めて成し遂げ、20年にはやぶさ2が成功。先月24日には米「オシリス・レックス」が小惑星「ベンヌ」の試料を持ち帰った。NASAは今月11日、この試料に炭素と水が含まれ「地球生命の構成要素が岩石の中に見つかる可能性がある」との初期分析結果を発表した。はやぶさ2とオシリス・レックス(オシリス・アペックスに改名)はそれぞれ、第2の探査先となる小惑星に向かっているが、地球に再帰還はしない。

NASAが11日公開したベンヌの試料の画像(NASA、エリカ・ブルーメンフェルド氏、ジョセフ・エバーソルド氏提供)

 今後は、2021年に打ち上げられ航行中の米「ルーシー」が、25~33年に8つの小惑星を調べる。日本には小惑星「フェートン」を探査する技術実証機「デスティニープラス」を打ち上げる計画がある。

 太陽系探査は一見、われわれの暮らしから遠い世界の話のようでありながら、調べるほどに地球や生命の探究につながり、足元や自分を見つめる活動であることが面白い。火星や木星といった惑星だけでなく、小惑星のような小さな天体が理解の鍵を秘めている。探査や研究の積み重ねを通じ、これから20年、30年…人類の宇宙観はどう変わっていくのだろう。

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