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ビートルズの調べに乗せて…米小惑星探査機「ルーシー」が船出

2021.10.19

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 木星が太陽の周りを回る軌道上のものを中心に、8つの小惑星を調べる米探査機「ルーシー」が地球を出発した。木星軌道の小惑星探査は史上初となる。12年の長旅を通じて異なるタイプの星を調べることで、太陽系の成り立ちの謎に迫る。

史上初、目指すは木星の軌道

 米航空宇宙局(NASA)の発表によると、ルーシーは日本時間16日午後、フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地からアトラス5ロケットで打ち上げられた。約1時間後にロケットの上段から分離し打ち上げは成功。その約30分後には十角形をした2つの太陽電池パネルが無事に開き、航行を続けた。

小惑星探査機「ルーシー」を搭載し打ち上げられるアトラス5ロケット=日本時間16日午後6時34分(NASAテレビから)

 NASAのトーマス・ザブーケン科学局長は打ち上げ後、「真の発見のためのミッションであるルーシーは、(木星軌道の)神秘的な小惑星について多くのことを学び、初期の太陽系の形成と進化についてよく理解する機会に富んだものだ」とした。

木星(ベージュ色の天体)の公転軌道の前後に、多数のトロヤ群小惑星が存在する(想像図、NASA提供)

 火星と木星の軌道の間の「小惑星帯」のものなど、太陽系には判明しているだけで約111万個の小惑星がある。木星の軌道上の、木星の前方「L4」と後方「L5」には、木星と太陽の引力のバランスが取れた場所「ラグランジュ点」があり、大小計約7000個の小惑星が集まっている。「トロヤ群小惑星」と呼ばれ、木星や土星、天王星、海王星の形成時の残り物や、太陽系の外縁部から来た物と考えられている。ルーシーはこの小惑星のうち7つを訪れる。

 従来の小惑星探査機は、地球に接近する軌道を持つ星や小惑星帯の星を対象にしてきた。それらより遠いトロヤ群の探査はルーシーが史上初となる。

猿人化石「ルーシー」のように

小惑星探査機「ルーシー」の想像図(NASA提供)

 ルーシーは科学者らが2014年に構想を開始。17年、効率の高い太陽系探査を低予算で実現するNASAの「ディスカバリー計画」の一つとして選出された。名称は人類の祖先である猿人化石の愛称「ルーシー」にちなむ。NASAは「ルーシーが人類の進化の理解に革命をもたらしたように、トロヤ群小惑星を研究すれば、惑星や太陽系の進化の新たな情報を得られるだろう」としている。

 計画ではルーシーは来年10月と2024年12月の2回、地球に近づき引力などを利用して軌道と速度を変える「スイングバイ」を実施。25年に、まず小惑星帯にある「ドナルドヨハンソン」を探査する。この星は化石のルーシー発見者にちなんで命名されている。

 27年にL4に到達すると、翌年にかけて「ユーリバテス」とその衛星「ケータ」のほか、3つの小惑星を探査。30年に3度目の地球スイングバイを経てL5へとかじを切り、33年に連星の小惑星「パトロクルス」「メノエティウス」を探査し、主要な役目を終える。

 これほど多くの目的地を目指す探査機は史上初という。いずれも星を通り過ぎる際に観測する「フライバイ探査」。日本の小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」のように星の上空に長くとどまったり、着地して試料を採取したりはしない。

 米サウスウエスト研究所でルーシーを担当するハル・レビソン主席研究員は「トロヤ群への到達に数年かかるが、これらの天体は科学的価値が非常に高く、待つ価値がある。空に浮かぶダイヤモンドのようなものだ」と、ザ・ビートルズの名曲「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」になぞらえてコメントした。

日米が繰り広げる小惑星探査

 米国は探査機「オシリスレックス」が小惑星「ベンヌ」の探査を今年5月に終え、はやぶさ、はやぶさ2と同様に試料を携えて2023年9月の地球帰還に向け航行中。このほか、探査目的ではなく、天体が地球に衝突する被害を抑える「プラネタリーディフェンス」の実験を、小惑星を使って行う宇宙機「ダート」を来月24日に打ち上げる。さらに来年夏には探査機「サイキ」を打ち上げ、小惑星帯にある金属でできた小惑星「プシケ(サイキ)」を探査する。

 日本も、はやぶさ2が昨年12月に小惑星「リュウグウ」の試料を地球に届けた後、別の小惑星「1998KY26」に向けさらに航行中。到着は2031年だ。また、物質を活発に放出する活動的小惑星「フェートン」を探査する深宇宙探査技術実証機「デスティニープラス」を2024年度に打ち上げる。このほか、トロヤ群小惑星に着陸する工学実証中心の探査機「オケアノス」も、科学者らが検討している。米国が小惑星に目覚めた背景には、初代はやぶさやその実現に先立つ日本の科学者らの地道な活動の影響が、少なからずあるようだ。

「ダート」(左=NASA、米ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理学研究所提供)と「デスティニープラス」(JAXA提供)。いずれも想像図

 探査機は打ち上げや到着といったできごとだけでなく、その先にコツコツと重なっていく科学の成果も見届けていきたい。20年後、30年後に私たちの太陽系の見方がどうなっているか、楽しみだ。

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