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米国版はやぶさ「オシリス・レックス」地球帰還 小惑星の物質お土産に

2023.09.25

 米探査機「オシリス・レックス」が日本時間24日夜、小惑星「ベンヌ」で採取した試料を収めたカプセルを地球上空で分離した。カプセルは米ユタ州の砂漠に着陸したと、米航空宇宙局(NASA)が発表した。カプセルには推定約250グラムの試料が入っており、正式に確認できれば、米国は「はやぶさ」「はやぶさ2」の日本に続き、小惑星の試料回収の2番目の成功国となる。カプセルを分離後に「オシリス・アペックス」と改名し、次の目的地の小惑星「アポフィス」へと舵(かじ)を切った。

回収されるオシリス・レックスのカプセル=米ユタ州(NASA、キーガン・バーバー氏提供)

 オシリス・レックスは24日午後7時42分、地球上空約10万2000キロからカプセルを地球に向けて放出した。カプセルは時速約4万4500キロで飛行し大気圏に突入し、2つのパラシュートを正常に開き、姿勢を安定させ同18キロまで減速。ユタ州ソルトレークシティー近郊にある米国防総省試験・訓練場の計画区域内に、同11時52分に着陸した。その後、ヘリコプターで場内にある仮設のクリーンルームに運ばれた。

 オシリス・レックス計画を率いてきたリッチ・バーンズ・プロジェクトマネジャーは「われわれのチームはワールドシリーズ(米大リーグ優勝決定戦)で、9回満塁から場外ホームランを決めた」と喜びを表現した。

(左)大気圏に突入したカプセル(NASAによる中継画面から)。(右)左の画像の約9分後に着陸した(NASA、キーガン・バーバー氏提供)

 小惑星の試料回収は2010年、はやぶさがトラブルを重ねながらも世界で初めて成功。20年、はやぶさ2がこれに続いた。米国は06年に彗星から噴出した試料を回収しているが、小惑星ではオシリス・レックスが初めてとなった。

 NASAのビル・ネルソン長官は「米史上初の小惑星試料回収は絵に描いたような達成となり、祝福する」とコメント。また来月5日にも打ち上げる小惑星探査機「サイキ(プシケ)」、2021年10年に打ち上げて航行中の同「ルーシー」などに言及し「これらの計画は、NASAが大きなことをしていることを改めて証明するものだ。われわれが団結すれば、手の届かないものはない」とした。

 2016年9月に地球を出発したオシリス・レックスは、18年12月にベンヌに到着。上空からの探査を経て20年10月、北半球のクレーター「ナイチンゲール」へと降下し、ロボットアームの先端を6秒間接地させ、砂などの試料を採取した。はやぶさ2が地表に弾丸を発射して砂などを舞い上がらせたのに対し、オシリス・レックスは地表に窒素ガスを吹き付ける方法を採用した。また、初代はやぶさ、はやぶさ2は地球でカプセルを開いて採取の成否を確かめたが、オシリス・レックスは回収装置の重さの変化を調べるなどして、250グラムほどを採取したとベンヌ上空で推定した。なお、はやぶさ2は計画段階の最低100ミリグラムの想定に対し、約5.4グラムだった。

ベンヌへと降下するオシリス・レックスの想像図(NASA、米アリゾナ大学提供)

 ベンヌは直径約500メートルで、はやぶさ2が探査した同約900メートルの「リュウグウ」と同様、地球に接近する軌道を持つ炭素質タイプの星。どちらも、見た目がそろばんの玉のようで、がれきのように岩が集まっており、有機物や水を含んでいるといった特徴が、よく似ている。ただベンヌでは時々、小石などが噴出するが、リュウグウでは同様の現象は観測されていない。

 試料は世界の研究者に分配され、太陽系の形成や進化、生命の起源の謎を解く手がかりなどが得られると期待されている。日米は探査を競う一方、試料を交換して分析するなどの協力関係を結んでいる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)はベンヌ試料の0.5%を受け取る。日米双方で試料を比較し、科学の成果を高める狙いがある。

左がベンヌ(NASA、米アリゾナ大学提供)、右がリュウグウ(JAXA、東京大学など提供)。形や表面の様子が、互いにそっくりだ

 オシリス・アペックスの計画は2022年4月に決定した。目的地のアポフィスは、初代はやぶさが探査した「イトカワ」と同じ岩石質タイプ。04年に発見されて以来、地球に衝突する恐れのある小惑星の一つとして警戒されてきた。その後の詳しい観測により、29年に地球にわずか3万2000キロ未満まで接近するものの衝突はせず、また36年の接近時も安全であることが判明。21年にはNASAや米グリーンバンク天文台の研究により、向こう100年あまりの衝突の恐れが否定されている。オシリス・アペックスの到着はちょうど、29年の地球接近のタイミング。地球接近による小惑星の変化を、上空を周回して観測するほか、探査機のガス噴射を利用しながら、表面やその下の砂や小石を調べるという。

 太陽系の小惑星の一部は地球に接近する軌道を持ち、将来、衝突する潜在的なリスクを持つと指摘される。小惑星の探査はこのリスクや対策の研究にも役立つという。

 一方、2014年12月の打ち上げから実に3200日あまりを経過したはやぶさ2は、第2の目的地の小惑星「1998KY26」に向け、地球から約2億6000万キロ離れた位置を航行中。今後は26年7月に小惑星「2001CC21」に接近し、観測しながら引力を利用して加速。27年12月と28年6月の2回にわたり地球に接近後、31年7月に1998KY26に到着する。はやぶさ2、オシリス・アペックスのいずれも、再び地球に帰還はしない。

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