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宇宙のかなたの精細な姿、人類に 「ジェームズウェッブ」初画像の数々

2022.07.19

草下健夫 / サイエンスポータル編集部

 有名なハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、米欧とカナダが開発し昨年末に打ち上げた「ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡」。初めて公開された観測画像の数々は、宇宙のかなたの息をのむほど精細な姿を人類に示し、今後の成果の大きさを予感させるものとなった。

 バイデン米大統領は11日、ホワイトハウスで「米国の特に子供たちに、私たちの能力を超えるものは何もないことを思い起こさせる画像だ。誰も見たことのないものを見られ、誰も行ったことのない場所に行けるのだ」の言葉とともに、最初の画像を公開した。

 米航空宇宙局(NASA)のトーマス・ザブーケン科学局長は「類まれなる歴史的瞬間だ。数十年にわたる遣り繰りと忍耐を要した。これらの画像は、宇宙の謎を解くという共通の目標のため、私たちがどれほど大きなことを達成できるかを示した」と開発チームをたたえた。

 ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、米欧が1990年に打ち上げたハッブルの後継機として開発された。主鏡の直径はハッブルの2.4メートルを大幅に上回る6.5メートル。本体を低温に保つために長さ21メートル、幅14メートルの巨大な日よけを持ち、重さは6.2トン。名称はNASA2代目長官の名にちなむ。可視光を中心に観測してきたハッブルに対し、近赤外線と中間赤外線に特化している。

 昨年12月25日に打ち上げた。複雑に折りたたまれた機体を展開し望遠鏡を微調整しながら1カ月かけ、地球から150万キロ離れた、地球と太陽の引力が釣り合う観測位置「ラグランジュ点2(L2)」に到着。さらに調整を重ね、NASAなどが計画通り今月11~12日、次のような観測画像を公開した。波長の異なる赤外線像を合成し、疑似的にカラー化するなどしている。

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星々が生まれる絶景――NGC3324

NGC3324(NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、米宇宙望遠鏡科学研究所提供)
NGC3324(NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、米宇宙望遠鏡科学研究所提供)

 りゅうこつ座の、7600光年離れたイータカリーナ星雲で、星が盛んに生まれている領域「NGC3324」の一部。山あり谷ありの風景写真のようにも見え、コズミッククリフ(宇宙の崖)とも呼ばれる。画像の上の方には若い巨大な星々があり、そこからの強い紫外線やガスの吹き付けにより、分子雲が削り取られた姿という。

ダンスを楽しむ?――ステファンの五つ子銀河

ステファンの五つ子銀河(NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、米宇宙望遠鏡科学研究所提供)
ステファンの五つ子銀河(NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、米宇宙望遠鏡科学研究所提供)

 ペガスス座にある銀河群。五つ子と言っても見かけ状のことで、うち4つは地球から2億9000万光年離れた所にあって実際に互いに近接しているのに対し、中央左の「NGC7320」はかなり手前、4000万光年の距離にある。NASAは「宇宙のダンスに巻き込まれている」と表現する。4つは、銀河の相互作用を研究するための重要な観測対象という。一番上の「NGC7319」の中心には太陽の2400万倍もの質量のブラックホールがある。

死にゆく星の姿――南のリング星雲

NGC3132(NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、米宇宙望遠鏡科学研究所提供)
NGC3132(NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、米宇宙望遠鏡科学研究所提供)

 ほ座にある2500光年の距離にある惑星状星雲「NGC3132」を、波長の異なる2つのカメラで捉えた。中心の死にゆく星がガスやちりを放った姿で、「南のリング星雲」とも呼ばれる。ジェームズウェッブは、この星がちりに覆われていることを明らかにしたという。

重力レンズが引き寄せる宇宙史――SMACS0723

SMACS0723(NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、米宇宙望遠鏡科学研究所提供)
SMACS0723(NASA、欧州宇宙機関、カナダ宇宙庁、米宇宙望遠鏡科学研究所提供)

 とびうお座の46億光年離れた銀河団「SMACS0723」。他の画像に先行してバイデン大統領が自ら発表した。画像の中央にあるこの銀河団の巨大な質量が、光を曲げる「重力レンズ」となることで、さらに遠くにある無数の銀河が周囲に写り込んでいる。131億光年のものを含むという。ハッブルの画像より、はるかに鮮明なものとなった。

 このほか、ほうおう座の1150光年かなたにある太陽系外惑星「WASP-96b」の大気の詳しい観測データも公開した。

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ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の想像図(NASA提供)
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の想像図(NASA提供)

 これらの画像は「これからよろしく」の挨拶状に過ぎない。ジェームズウェッブへの期待は大きい。例えば、138億年前の宇宙誕生からわずか2億年後の銀河や星を観測し、宇宙の歴史の解明に挑む。また、太陽系外惑星の生命の可能性も探る。1990年代以降、系外惑星は7月19日時点で5060個も見つかっている。この中で地球に似たタイプの星を調べ、酸素やメタンといった生命起源の可能性がある大気成分を捉えれば画期的だ。NASAの担当者は今回の画像を受け「われわれは大喜びだ。今後得られる、美しく信じられないほど詳しい画像や観測データが、宇宙の理解に大きな影響を与え、大きな夢を抱かせてくれるだろう」としている。

 機体の複雑な構造のため開発は難航し、ジェームズウェッブの打ち上げは14年も延期されてきた。1990年代半ばに5~10億ドルとされた開発費は結局、100億ドル(1兆3800億円)にまで高騰。一時は計画中止を求める声も高まり、研究者などの間に「本当にできるのか」と疑問視する向きもあった。

 筆者も、機体の姿から「宇宙帆船」などとカッコよく形容して記事を書いてはきたものの、そうした声に触れるにつけ、できるか分からない“お化け望遠鏡”だとも思ってきた。今回の画像を見て、「本当にやったんだ!」という感動が込み上げた。プロジェクトの進め方に反省点はあろうが、ここは当事者の粘り強さをたたえ、ハッブルのように誰もが知る宇宙望遠鏡として活躍するのを楽しみにしたい。

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