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北極海にいた“世界一のろい魚”

2012.06.18

 北極圏の冷たい海に生息する「ニシオンデンザメ」が“世界一のろい魚”であることを、日本の国立極地研究所やノルウェー極地研究所、カナダのウィンザー大学の研究チームが国際的な海洋科学誌「Journal of Experimental Marine Biology and Ecology」(オンライン版)に発表した。

 研究チームは2009年6月にノルウェー沖の北極海で、体長3メートル前後の6匹のニシオンデンザメ(体重204-343キログラム)の体にGPS(衛星利用測位システム)機能付きの測定器を取り付け、24時間の動きを調査した。

 その結果、ニシオンデンザメの平均的な泳ぐ速さは秒速約34センチメートル(時速約1.2キロメートル)と、人間の赤ちゃんのハイハイほどで、最大でも時速2.6キロメートルほどしかなかった。泳ぎに伴う尾びれの動きも、加速度のデータから推定すると、左右の1往復に7秒もかかっていた。

 これらの値を、体の大きさと体重の比率、種類(系統)による違いなどを考慮して他の魚と比較すると、これまでに調べられたニシンやサケ、タラ、ヒラメ、マンボウ、チョウザメ、他のサメなどよりも遅いことが分かったという。

 調査に参加した国立極地研究所・生物圏研究グループの渡辺佑基助教によると、動物の筋肉の収縮速度は、温度の低下とともに急激に遅くなる。北極海の冷たい水の影響で、尾びれの動きが鈍くなり、それに伴って泳ぐ速さも落ちていると考えられる。

 不思議なのは、この“世界一のろい魚”が、泳ぎの速い哺乳類のアザラシを襲って食べることだ。渡辺さんは、北極のアザラシはホッキョクグマを避けるために、水面で眠ることがある。この時を狙い、ニシオンデンザメがアザラシを襲って食べているのかもしれないと話している。

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