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コロナ禍、新年早々第6波の様相 オミクロン株、新規感染者の約半数に

2022.01.07

内城喜貴 / サイエンスポータル編集部、共同通信社客員論説委員

 年が明けても欧米を中心に世界中で新型コロナウイルス感染症の感染者増加が続いている。日本でも感染拡大の第6波の様相になってきた。厚生労働省の集計によると、6日夜までに国内で新たに4500人近い感染者の報告があった。1日の新規感染者が4000人を超えるのは昨年9月18日以来。沖縄、東京、大阪、広島などの都府県での感染拡大が顕著。年明け2日までの1週間の集計では感染力が強いとされるオミクロン株の感染疑い例が半数近くに達した。政府は7日、9日から沖縄、山口、広島の3県に「まん延防止等重点措置」(まん延防止措置)を適用することを決め、さらなる拡大阻止に注力する構えだ。

国立感染症研究所が昨年12月に分離に成功したオミクロン株(SARS-CoV-2 B.1.1.529)の電子顕微鏡画像(国立感染症研究所提供)

「今後感染急拡大の恐れ」と専門家組織

 厚労省の6日午後10時段階の集計によると同日の新規感染者は4475人。1週間で約9倍になった。内訳は沖縄県981人、東京都641人、大阪府505人、広島県273人、山口県181人など。空港検疫でも174人の感染者が新たに見つかった。

 同省にコロナ対策を助言する専門家組織は6日の会合で、全国の約8割の都道府県でオミクロン株の感染が確認された。2日までの1週間の集計では、「疑い例」が新規感染者の46%を占めることを公表。「医療提供体制等が逼迫(ひっぱく)する可能性に留意する必要がある」と強調した。

 専門家組織は、最近の感染状況について「新規感染者は急速に増加している」と明言。感染者が急増している地域として沖縄、山口、広島3県を挙げたほか、「関東や関西地方などの都市部を中心に新規感染者の増加が見られる」とした。

 そして「国内では約8割の都道府県でオミクロン株の感染が確認されており、海外渡航歴がなく、感染経路が不明の事案が継続して発生している地域もある」と指摘。「オミクロン株はデルタ株と比べて(感染者数が倍になる)倍加時間や潜伏期間の短縮化、二次感染リスクや再感染リスクの増加が指摘され、ワクチンについては重症化予防効果は一定程度保たれているものの発症予防効果は著しく低下していると報告されている」と警戒を呼びかけている。

 同組織は現在の感染者増加について、昨年のクリスマス前後の状況が反映されているとの見方を示し、「年末年始の帰省などによる人の移動や接触が増加したことに加え、今週末の3連休があることや、気温の低下に伴い屋内での活動が増えていくことも踏まえると今後さらに感染が急拡大する恐れがある」と指摘した。  

オミクロン株まん延し累計感染者は3億人突破

 オミクロン株は昨年11月下旬に南アフリカから世界保健機関(WHO)に報告されて以降、わずか1カ月あまりで世界中に広がった。日本国内では昨年11月30日に空港検疫で感染例が初めて見つかり、同12月22日には大阪府で市中感染例が判明。政府は水際対策を強化していたが、その後も市中感染の報告が相次いでいる。5日時点で海外渡航歴がなく感染経路が不明で市中感染が疑われる例は500を超え、市中感染はその後も増加しているとみられる。

 現時点で国内の新規感染者に占める同株の割合は約半数だが、米国や英国では短期間で同株がデルタ株に置き換わっていることから、感染症の専門家は日本でもオミクロン株が席巻するのは時間の問題としている。

 WHOによると、昨年12月27日から1週間の感染者数は世界で952万人に達し、過去最多となった。その前の週も950万人に迫っていたが、年を越えて減ることはなかった。これまでの1週間の感染者数の最高は昨年4月に2週連続で記録した約570万人でこれを大幅に上回ってしまった。欧米を中心にオミクロン株がデルタ株に置き換わっていることに加え、日本同様世界でも年末年始で人の流れが活発になったことなどが大きな要因だ。

 世界で最初に中国で感染例が報告されてから2年以上経っても、感染拡大の勢いは依然衰えていない。米ジョンズ・ホプキンズ大学の集計によると、日本時間7日昼過ぎの時点で世界の累計感染者は3億人を超えた。累計死者数は約547万人を数える。

世界の感染者や死者などを伝える米ジョンズ・ホプキンズ大学の特設サイト(日本時間7日午後、米ジョンズ・ホプキンズ大学提供)

 WHOが2日に公表したデータによると、1週間の感染者数の地域別では、欧州地域事務局管内が約539万人(57%)、南北米大陸が約326万人(34%)で、2地域で世界の大半を占めている。一方、1週間の死者数は4万1178人で前週比10%減った。今後の推移を見る必要があるが、重症化率が低いとされるオミクロン株の特性が反映したとみられている。

世界の1週間当たりの感染者数と死者の推移(WHO提供)

重症化しにくくても感染増に注意、と感染研

 国立感染症研究所は昨年11月28日にオミクロン株を「懸念される変異株(VOC)」に認定。同株に関する分析・解析と同時に国内外のデータを収集している。同株は感染に関わる重要部位であるスパイクタンパク質に30程度の変異があり、うち15変異は感染する細胞の受容体結合部位に存在する。

 同研究所は感染力(感染・伝搬性)について、「引き続き知見の集積が必要」「あくまで暫定値で解釈には注意が必要」としつつも、「南アフリカでは高い実効再生産数が報告され、英国イングランドでは感染者数が倍になる『倍加時間』の短縮や感染者数の高い増加率が報告されている」「潜伏期間がデルタ株より短い可能性を示す所見がある」「国内のある調査では2次感染率は22%、潜伏期間の中央値は3日」などと指摘している。

 またワクチン効果への影響については「ワクチン接種や自然免疫による免疫を逃避する性質が遺伝子配列やラボでの実験、疫学データから示唆されている」「ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株より低い可能性が示されている」「3回目接種(ブースター接種)によるオミクロン株感染の発症予防効果が高まる可能性が示唆されているが、3回目接種からの日数が数週間程度と非常に短いデータであることから中長期的にこの効果が持続するかは不明」としている。

 抗体医薬品の効果への影響については「抗原性の変化により、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の効果への影響も懸念されている」と指摘した。

 さらに重症度についてはオミクロン株に感染した109例の分析結果として「94%が無症状か軽症で、デルタ株より重症化しにくい可能性が示唆される」としつつ「重症化リスクがある程度低下していたとしても感染例が大幅に増加すると重症化リスクの低下分が相殺される可能性も考慮する必要がある」と注意を呼びかけている。

 国立感染症研究所はまた、国立国際医療研究センターと共同でオミクロン株の感染者が他人に広げるリスクがいつ、どの程度あるかについて、昨年12月22日までに感染者登録された21例、83検体を対象に調査した。調査対象者の平均年齢は男性19例、女性2例。ワクチン2回接種者17例、3回接種者2例、未接種者2例だった。症状は軽症17例、無症状4例で、重症者例はなかった。

 オミクロン株感染例の呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)を分析した結果、Cq値は発症あるいは診断日から3~6日でピークを迎え、その後約10日で低下することが分かった。この結果について同研究所は「2回ワクチン接種から14日以上経過して感染した軽症、無症状者は発症または診断10日後以降は感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆される」としている。

オミクロン株症例におけるCq値の診断後と発症後の日数別推移(国立感染症研究所提供)

沖縄など3県に「まん延防止等重点措置」

 厚労省関係者によると、政府は6日夜までに急激な感染拡大を受けて、沖縄、山口、広島3県にまん延防止措置を適用する方針を決めた。期間は9日から31日まで。コロナ対応の改正特別措置法に定める措置が実施されるのは、昨年10月に岸田文雄首相が就任してから初めてとなる。政府は7日午前に政府の基本的対処方針分科会での了承を受け、午後の衆参両院議院運営委員会への報告後、夕方の対策本部で正式決定。岸田首相は全国的急激拡大を何とか阻止したい考えだ。

 まん延防止措置適用範囲の決定は知事の権限だ。沖縄県は全域に、山口県は米軍岩国基地がある岩国市など、広島県は岩国基地に近い大竹市や廿日市市、広島市などが対象。昨年末から米軍基地がある自治体で感染者が増え、各県知事らは米軍に由来するオミクロン株が広がったとの見方を示している。

 厚労省の専門家組織は公式には「第6波」との表現をまだ使っていない。しかし日本医師会の中川俊男会長は6日の記者会見で「全国的に第6波に突入したと考えている」と述べた。多くの専門家も第6波に入ったとの見方を示している。

 東京都の6日の新規感染者数は641人で、前週12月30日は64人だったことから1週間で10倍になった。小池百合子知事はまん延防止措置などの適用の可能性について6日現在、明確な見解を示していないが、現時点での急激な増加傾向が続けば何らかの措置をとらざるを得ないとみられている。

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