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新型コロナの新変異株「オミクロン」、日本で初確認 世界が拡大を警戒

2021.11.30

内城喜貴 / サイエンスポータル編集部、共同通信客員論説委員

 南アフリカで確認された新型コロナウイルスの新たな変異株について、世界保健機関(WHO)が最も警戒レベルが高い「懸念される変異株(VOC)」に指定し、「オミクロン株」と命名した。南アフリカなどからの報告からわずか数日で欧州を中心に世界に広がっている。今後さらに拡大する可能性が高く、多くの国の政府は憂慮しており、人の接触が増える年末年始を控えて水際対策などを強化している。

 WHOは「多くの変異があり、いくつかの変異に懸念される特性がある」との見解を示した。感染力が従来株より強まっている恐れもあるという。厚生労働省関係者によると30日午後、アフリカ南部のナミビアから28日に帰国した30代男性が同株に感染していると判定された。日本国内で初確認となる。日本は現在、夏の「第5波」の時と比べて全国的に新規感染者が激減しているだけに、政府も危機感を示し、全世界からの入国禁止措置をとった。新変異株の出現が「第6波」に結びつくことやワクチン効果などへの影響が懸念されている。だが、現段階では未知なことが多い。正確な情報を待って冷静にリスク評価し、的確に対応することが何より大切だ。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のイメージ図(NIAID提供)
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のイメージ図(米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)提供)

南アから急速に拡大し、各国が相次いで確認

 WHOによると、南アフリカ政府から新変異株の報告があったのは11月24日。同月9日に採取された検体が初確認だったという。南アフリカでは約2週間でそれまでのデルタ株を置き換えて同国内の感染の主流になったとみられる。この地域ではデルタ株が広がっていた。そこにオミクロン株が入り込んで置き換わっていることから、感染力はデルタ株よりも強い可能性が指摘されている。

 WHOの動きは速かった。26日にこの「B.1.1.529」系統の新変異株をオミクロン株と命名し、世界に警戒を呼びかけるVOCに素早く指定した。オミクロンはギリシャ文字の15番目のアルファベット。VOC指定はアルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株に続く5番目だ。

 WHOが警戒を呼びかけ始めた頃、欧州各国からオミクロン株の確認報告が相次いだ。欧州では26日にベルギーで最初に確認された。27日には英国で、28日までにドイツ、イタリア、オランダで同株感染が判明した。その後欧州から他の大陸に拡大し、香港、オーストラリア、カナダでも見つかっている。日本時間30日午前現在、14の国・地域を数える。今後増えることは必至とみられている。

 英国からの報道によると、ジョンソン首相は27日、「この変異株は世界中に広がっている。初期段階では未知の部分が数多くある」などと国民に厳重な警戒を呼び掛けている。米ホワイトハウスによると、バイデン米大統領政権の新型コロナ対策責任者であるファウチ米国立アレルギー感染症研究所長は「米国への侵入は避けられない」として対応策を急ぐ必要があることを強調している。

 WHOの警戒に呼応するように多くの国が水際対策などを強化している。ドイツやイタリアなどのオミクロン株の感染者はいずれもアフリカ南部からの渡航者だったためだ。米政府は27日にアフリカ南部8カ国への渡航中止勧告を出し、イスラエルは全ての外国人の入国を禁止するという強い措置をとっている。その後こうした措置にならう国が増加している。

変異約30カ所、懸念されるワクチン効果への影響

 オミクロン株は人の細胞に侵入する際の足掛かりとなる表面の突起に変異が多いことが分かっている。「感染力が強まっていないか」「ワクチンや抗体薬が効きにくくなる恐れはないか」「重症化するのか」。この3点が懸念されている。

 疑似ウイルスであるワクチンを接種することにより、ウイルスが細胞に侵入して感染するのを防ぐ抗体をつくる。これがワクチンの基本的な仕組みだ。変異株の変異箇所が多いと、できた抗体がうまくウイルスに結合できずワクチン効果が落ちる恐れがある。抗体を使った治療薬の効果にも影響する可能性もある。

 国立感染症研究所が26日と28日に発表した見解によると、オミクロン株は感染に必要なスパイクタンパク質に32カ所の変異がある。このうち15カ所の変異は感染の鍵を握る「受容体結合部位(RBD)」に存在するという。日本を含めて世界中で猛威を振ったデルタ株の変異は10カ所前後だった。これまでの変異株より変異が多い。

 30を超える変異の数はこれまでに判明している変異株で最多だ。新型コロナウイルスが登場し、世界で流行、拡大したこの2年近くの間で「最も分岐した」変異株といえる。

 現時点ではこの変異株の詳しい特性はまだ明らかではない。重症化に関係するかどうかについては全く情報がない。懸念材料の解明には今後各国の研究機関の検証研究を待つしかないのが現状だ。

 だが、国立感染症研究所は、変異の仕方から「細胞への侵入しやすさに関連する可能性がある」「免疫逃避に寄与する可能性や感染・伝搬性を高める可能性がある」としている。同研究所は28日、日本でもオミクロン株をVOCに指定。今後、国内の感染状況を把握するためにウイルスのゲノム(全遺伝情報)解析を進める方針で、政府もゲノム解析強化を地方自治体に要請した。

国立感染症研究所が28日に公表したオミクロン株に関する概要の表。検出国はその後増えている(国立感染症研究所作成/提供、*はメディア情報より)
国立感染症研究所が28日に公表したオミクロン株に関する概要の表。検出国はその後増えている(国立感染症研究所作成/提供、*はメディア情報より)

感染者激減の日本も水際対策を強化

 日本は感染拡大の第5波が収まってから新規感染者数が大幅に減っていた。欧州ではドイツなどで、東アジアでも韓国などで新規感染者が増えていた。日本ではワクチン接種率が76%(11月25日現在)と高く、行動制限も緩和される傾向にあった。

 25日に開かれた厚生労働省に助言する専門家組織の会合では「全国の新規感染者数は、対前週比0.68と減少が継続し、直近の1週間は10万人当たり約0.6人で昨年夏以降最も低い水準が続いている」と報告されていた。その一方で「一部地域では夜間の滞留人口の増加が続くほか、飲食店や施設等でのクラスターの発生や感染経路不明事案の散発的な発生による一時的な増加傾向が見られ、継続的な増加につながるか注視する必要がある」としていた。

11月27日現在の日本の新規感染者の概況。下のグラフは10月以降1日当たりの新規感染者が急減していることを示している(厚生労働省提供)
11月27日現在の日本の新規感染者の概況。下のグラフは10月以降1日当たりの新規感染者が急減していることを示している(厚生労働省提供)

 このような国内状況の中で飛び込んできた新しい変異株の脅威。日本政府の対応も迅速だった。WHOが懸念を表明した26日、松野博一官房長官が記者会見し「危機管理の要諦は最悪事態を想定することだ。新たな変異株の感染が拡大するなど状況が悪化する場合には機動的に対処していく」と強調している。

 その後29日昼には岸田文雄首相が急きょ、全世界を対象に外国人の新規入国を禁止する措置を30日午前0時から実施すると表明した。期間は当面1カ月としている。日本への帰国者らを対象とした待機措置についても、これまでの9カ国に加えて14カ国・地域を新たに追加し計23カ国・地域に拡大。待機期間も14日とした。

 政府は11月8日から条件付きで短期のビジネス目的の新規入国者の待機期間を3日間に短縮し、原則認めていなかった留学生や技能実習生の入国も再開していた。こうした中での今回の措置について岸田首相は「最悪の事態を避けるために緊急避難的予防措置として外国人の入国を全世界対象に禁止した」などと述べ、早めの緊急対策であることを強調している。

29日、水際対策の強化などを記者団に説明する岸田文雄首相(首相官邸提供)
29日、水際対策の強化などを記者団に説明する岸田文雄首相(首相官邸提供)

正確な情報を待って、的確な判断と行動を

 オミクロン株の脅威が世界で、日本で、どの程度あるのか、ないのか-。現時点で判定することは難しい。ある程度の見通しがつくまで最低2、3週間はかかると指摘されている。

 12月に入ると日本もクリスマス・年末商戦でにぎわう。人々の移動や懇談の機会も増える。1日からは国内で3回目接種が始まる。2回目を打って概ね8カ月経った医療関係者や高齢者らが当面対象になる。今後のワクチン接種の進め方にオミクロン株がどの程度影響する否かも現時点では不明だ。

 米製薬大手ファイザーとmRNAワクチンを共同開発したドイツのバイオ企業ビオンテックは、新変異株に対応できる新ワクチンを100日以内に出庫できると表明した、と海外メディアは報じている。同社が現在のワクチンは新変異株への効果を減衰すると見ているのかどうかははっきりしない。

 こうした状況の中でバイデン米大統領は29日、「懸念材料ではあるがパニックになる必要はない」と強調。「いずれ米国内でも(オミクロン株が)見つかるだろうがこれまでと同じように新たな脅威にも立ち向かわなければならない」と訴えた。同大統領は既存のワクチンがこの新変異株にどの程度効果があるのか数週間かかるとの見方を示している。

バイデン米大統領の演説内容を伝えるホワイトハウスのプレスリリース(ホワイトハウスのホームページから)
バイデン米大統領の演説内容を伝えるホワイトハウスのプレスリリース(ホワイトハウスのホームページから)

 一方、今後日本国内での水際対策を強化しても、オミクロン株が国内で広がる可能性はある。その時どうするか。感染力が強い可能性はありそうだ。ただ重症化への影響がなければ医療現場は対応しやすい。

 多くの専門家はそろって感染対策の基本は変わらないと強調している。国内拡大を阻止するためには、水際対策の徹底を続けることや感染者を追跡してクラスター発生を何とか食い止めることが必須だ。個人レベルでは、極力「3密(密閉、密集、密接)」を避け、手指消毒やマスク着用を徹底し、密閉にならない室内の換気を励行することも必要だ。

 過剰に反応することなく、正確な情報を待って冷静にリスク評価しながら、的確に判断し行動することが何より求められる。

世界的には地域によって新規感染者の増加が見られることを示す米ジョンズ・ホプキンズ大学の専用サイト(米ジョンズ・ホプキンズ大学提供)
世界的には地域によって新規感染者の増加が見られることを示す米ジョンズ・ホプキンズ大学の専用サイト(米ジョンズ・ホプキンズ大学提供)

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